イザベラ・バードのハワイ紀行
イザベラ・バード(著) 近藤純夫(訳)
557頁 2,940円(税込) 平凡社
1878年(明治11年)に、まだ江戸時代の面影が色濃く残る日本の東北地方から北海道を旅し、当時の日本の農村の生活や習慣を、欧米の女性の視点から見た『日本奥地紀行』で知られるイザベラ・バード。この本を読んだ時、彼女の細かい描写にかつての日本の姿を想像し、わくわくしながらページをめくったものです。
彼女のハワイ諸島の旅行記があることを知ったのは、今回この本を翻訳されたアロハカワラ版のコーディネーターでもある近藤さんが、特集「本の世界(3)イザベラ・バード」と題して彼女の旅行記について紹介された時でした。その後、昨年からこの本の翻訳を始められ事を近藤さんより聞き、この本の発行を心待ちにしておりました。
イザベラ・バードがハワイを訪れたのは1873年(明治6年)。キャプテン・クックが欧米人として初めてハワイ諸島を発見したおよそ一世紀後のハワイは、ハワイ王国の時代でした。即位間もないルナリロ国王の下、先住民のハワイアンたちが欧米人に支配されることなく、ハワイアンだけでなく、ポリネシア人や白人、中国人など多彩な人々がにこやかに生活する当時のハワイの様子が、『日本奥地紀行』と同様に大変に細かい描写で記されています。
彼女が訪れた場所には、今でも旅人が多く訪れる場所がたくさん登場します。彼女がホノルル到着後訪れたヌアヌ・パリ、ハワイ島のレインボー滝、マウイ島のハレアカラなどは、現在も多くの旅行者が訪れる場所ですね。なかでも、馬でたどり着いたキラウエア火山のハレマウマウ・クレーターは、ちょうど火山活動が活発な時期であったそうですが、火山ガスに苦しんだり、靴底が焦げ顔面に火脹れができるような場所まで溶岩に近づき観察しています。また、標高4000mを超えるマウナロア登頂を果たし、山頂のカルデラから上がる火焔を観察しています。
火山だけでなく、当時のハワイの街並みや農村の風景、優しさと厳しさを持つ大自然の景観を事細かに書き記しているのは、まだ車のない時代ですので馬の高さからゆっくりと移動しながら色々と観察しているからなのでしょうか?また、現在と比べると交通機関も発達しておらず、他島へ渡る船を逃すと何日もその場所に滞在しなくてはならなくなり、現地の人の生活により一層近づくことができるからでしょうか?
この本の帯に「130年前のハワイ王国にタイムスリップ!」とありますが、読み進むと自分自身がこの時代のハワイにたどり着いたような錯覚を覚えます。当時のハワイの人々の大らかさや優しさは、おそらく現在にも通じるものはあると思いますし、また、ハワイの自然の魅力は今なお私たちを魅了します。
私は、ハワイ各島の地図を広げて、イザベラ・バードの行程をたどりながら、そしてかつてのハワイの風景を思い浮かべながらこの本を読みました。王国時代のハワイを今訪れることはできませんが、当時とまったく異なる事、当時も今も変わらないことを探しながら、時間が経つのも忘れ、久しぶりに読書に没頭しました。
(こづか)
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