昔々、人間がハワイ諸島に住んでいなかった頃、ハワイには浜辺で寝そべるモンク・シールの他、哺乳類はいなかったそう。その頃、ハワイは鳥たちの楽園だったのだと思います。海によって外界から隔てられているハワイ諸島は、海を渡ってきた植物や鳥たちが、独自の進化を遂げた貴重な場所なのです。
ハワイミツスイは、ハワイに昔から住んでいた鳥です。かつてはたくさんいたハワイミツスイは、数も種類も、そして生息地もどんどん減っています。その原因は、乱獲や開発による環境の悪化、蚊が媒介する病気など、たくさんあります。現在では、ハワイミツスイは高所の森など限られた場所で、やっと生き延びているという状態です。
さて、それはまだ、私がハワイミツスイを見たことがなかった頃、ハワイ島のコナ近くでバードウォッチャーのご夫婦に出会いました。ハワイでは、メインランドから来たバードウォッチャーによく出会います。みなさん、双眼鏡と鳥図鑑を持って、野外できょろきょろしているので、すぐに「バードウォッチャーだな」と分かるのですが、私は積極的に声をかけるようにしています。何故なら、みなさんとても親切に鳥を見た情報を教えてくださるからです。このバードウォッチャーのご夫婦からも、バードウォッチ初心者だった私は、たくさんアドバイスを頂きました。「まだアパパネも見たことがないのですよ」と、私が言うと、「ボルケーノのサーストン・ラバチューブに行ってごらんなさい、たくさんアパパネがいるわよ」と、教えてくださいました。サーストン・ラバチューブと言えば、ツアーバスも停まる観光名所です。そんな所に、絶滅が危惧されているハワイミツスイがいるのでしょうか。
「10時ごろに行っても、アパパネが飛び回っていたわよ」と、聞いたのですが、朝7時ごろには、ボルケーノ国立公園に来てしまいました。ボルケーノ国立公園は、溶岩に囲まれた大地だけではなく、深い森もある場所です。サーストン・ラバチューブのある場所も、オヒアや羊歯が鬱蒼と茂る森。たくさんの鳥の声が聞こえてきます。「あ、アパパネ!」大きなオヒアの周りには、何羽ものアパパネが飛び回っていました。アパパネは、スズメより少し小さい赤い鳥です。他にも外来種のノーザン・カーディナルなど、赤い鳥がハワイにはいるのですが、黒い細く長い嘴や、尾羽や風切り羽の先が黒いことなどが、アパパネを見分ける目印になるでしょう。アパパネは、オヒアの花、レフアの蜜を好みます。細い嘴をレフアの花に差し込んで、根元にある蜜を吸っているようです。蜜を吸っている間も、ずっと囀っているので、早朝のボルケーノの森は、なかなかかしましい。それに、アパパネは羽音が大きいので、パタパタと飛び回る音も聞こえてきます。朝露に濡れる森の中を、アパパネたちは盛んに飛び回っていました。
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少しずつアパパネを見ることに慣れてくると、サーストン・ラバチューブ以外でも、ボルケーノ国立公園の周辺でアパパネを見つけることができるようになってきました。サーストン・ラバチューブのすぐ近く、キラウエア・イキの縁を巡る、クレーター・リム・トレイルもアパパネを見るにはいい場所です。アパパネは、木の枝の先にとまることが多く、地面から見上げていると、はるか頭上に小さな赤い鳥の影を見るのがやっとです。しかし、クレーター・リム・トレイルは、火口の縁を崖伝いに歩く道。崖に生えた木々の枝先は、すぐ目の前です。アパパネも目の高さで見ることができます。黒い溶岩で覆われた、イキの火口を飛ぶ、赤いアパパネの姿も、とてもきれいです。このトレイルの、サーストン・ラバチューブの駐車場からキラウエア・イキ展望台までは、片道800mほど。羊歯に囲まれた道は、森の間からイキの火口を覗ける場所もあり、バードウォッチをしなくてもなかなか楽しいところです。気軽なトレッキングをしてみたいな、と思う方にもお薦めのコースです。ハワイ島では、他にも、1959年のイキの大噴火で出来た、プウプアイという丘の近くを歩くデバステーション・トレイルや、国立公園のゲートの外にあるキプカ・プアウル(又の名を「バード・パーク」といいます)でも、アパパネの姿をよく見かけます。どちらも、30分くらいで歩くことができるトレイルです。
ハワイミツスイのなかでも比較的、見つけることが容易なアパパネですが、市街地では見ることができません。アパパネを探すのには、オヒアや羊歯に囲まれた森に行かなくてはいけないようです。ハワイの森は、人間が住んでいなかった頃とは、大きく変わってしまっているでしょう。しかし、アパパネの住む森へ行くと、昔々のハワイは、こんな場所だったのかな、と思います。アパパネを見つけに、ハワイの森に行きませんか。 |