ハワイ島は島をぐるりとドライブできる島ですが、険しい地形によって、北端の海岸線沿いは、車が通れません。ヒロから海に沿って北上して行くと、大きな崖の上で行き止まりになります。ここがワイピオ渓谷です。行き止まりになった崖の上には展望台があり、眼下に緑の深いワイピオの谷と、切り立った対岸の崖を眺めることができます。ダイナミックな景観が多いハワイ島の中でも指折りの景勝地ではないでしょうか。ワイピオの崖の上は、恰好の記念写真ポイントになっています。
ワイピオ渓谷は、崖に囲まれ川が流れ込む、アフプア・ア(*)として使われた典型的な場所です。現在も谷間にはタロ畑が広がっています。ハワイ島では「ワイピオで採れたタロが一番おいしい」とも言われているそうです。かつてワイピオはハワイの文化や政治の中心地として栄えていました。大きなヘイアウ(寺院)もあり、古代ハワイのカフナ(神官)が集会を開くなど、宗教的な意味でも重要な場所でしたが、ある時、生贄を捧げよとの神託を聞いたカフナにより、大量殺戮がされたこともありました。その後、津波がワイピオを襲い、たくさんの生贄が捧げられたヘイアウも破壊されてしまいました。ワイピオの谷のどこかには、冥府への入口があるとも言われ、現在でも大きなマナ(力)が宿る場所と言われています。
* 近藤純夫さんの「特集 知る・歩く・感じる アフプア・ア (Ahupua‘a)」を参照
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ワイピオに降りる急な坂で。カメラが斜めなのではなく、車が斜めになっています |
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さて、そのワイピオ渓谷ですが、谷へ降りるには急な坂を下らなくてはいけません。レンタカーの走行は禁じられている上、4WD車でも土地の運転に慣れていないと難しそうな道です。もちろん歩いて降りてもいいのですが、かなり大変そう。しかし、ワイピオの谷を巡るツアーがいくつかあるので、それらを利用してワイピオを観光することができます。ワイピオでは、海岸線以外はほとんどが私有地で、「KAPU(立ち入り禁止)」の札も見かけるので、ツアーを利用するのが無難でしょう。以前、私もこのツアーの一つを利用してワイピオ渓谷へと降りたことがあります。
私が利用したのは、ワイピオ渓谷を馬に乗って散策するツアー。集合場所のお土産屋さんから、ツアー会社の車に乗り換えて、ワイピオ渓谷へと向かいます。ツアー会社の車でも、ワイピオ渓谷を降りるのは大変そうです。ゆっくりゆっくり坂を下りますが、道が悪いので激しく揺れます。途中、ワイピオに流れ込むヒイラヴェ滝を見ることができました。ヒイラヴェ滝は、展望台になっている崖の上からは見ることができません。ヒイラヴェ滝とその隣りのハカラオア滝は、悲恋の恋人たちが姿を変えたという伝説があるのですが、ハカラオア滝はほとんど干上がってしまっていて、滝の様子を見ることはできませんでした。そうしているうちにも、ツアーの車は馬たちの詰め所に到着しました。
簡単な注意や説明の後、ツアーのリーダーに各自の体格にあった馬を選んでもらうと、すぐにツアーの開始です。馬たちは慣れているので、ほとんど何もしなくてもリーダーの馬の後について行ってくれますが、馬は乗る人が馬に慣れていないことをすぐに見抜くよう。乗馬初心者が乗った馬は、ちょっとしたい放題になってしまいます。私がツアーに参加したのは9月。この時期、谷間はグアバの実がたくさん落ちていました。すぐに立ち止まって落ちているグアバを食べ出してしまう馬に、乗馬初心者たちは四苦八苦です。でも、馬たちはリーダーの指示には従順なので、グアバを食べていても、いつかはリーダーについて行ってくれます。私の乗った馬は、ちょっと気が強いところがあって、隣りに並んだ馬を噛もうとしましたが、グアバを食べることもなく、かなり言うことを聞いてくれました。
馬に乗ったツアーの一行は、浅い川になっている細い道を進んで行きます。周囲はタロ畑と深い森。鳥のさえずりが聞こえるだけの、静かでのんびりとした風景が広がっています。時折、タロ畑を吹き抜ける風が、気持ちいい。景色を楽しみながら、ゆったりと乗馬、と言いたいところですが、馬に乗るのがせいいっぱいな時もあり、周囲の景色をずっと見ていることはできません。途中、馬の胸の辺りまでの深さの川を渡ったときは、ちょっと馬も川に流されそうになり、かなりアドベンチャーな感じでした。40分ほど行った川原で休憩になり、ちょっと一息。馬たちも川の水を美味しそうに飲んでいます。この川原から折り返して、ツアーは終了しましたが、2時間弱ほど、馬に乗っていたようです。乗馬のツアー以外にも、車でワイピオを巡るツアーや、馬車で巡るツアーがあります。ワイピオ渓谷に降りる時間がないかたでも、雄大なワイピオの景色を見に行くのもいいですよ。 |