ハワイ島は大雑把に言うと、マウナ・ロアとマウナ・ケアという、標高四千メートルを超える二つの山を、取り囲むようにできた島です。この二つの大きな山の間を抜ける道が、サドル・ロード。道が馬に鞍(サドル)を掛けたかのように見えることから、この名前が付いたそうです。地元の人はよく使う道ですが、ほとんどのレンタカー会社では、この道の通行時の事故に対し、保険を適用していません。そういうわけで、サドル・ロード沿いにあるトレイルを歩く人は、あまりいないようです。実はこの辺りは、ハワイ島のなかでも私の大好きな場所の一つなのです。
サドル・ロードの真中辺りに、プウ・オオ・トレイルはあります。このトレイルは、その昔この辺りで牧畜をしていた人たちが、ボルケーノまで牛を追うのに使った道でした。プウ・オオ・トレイルのある辺りまで、サドル・ロードをドライブしてくると、天気がよければ、マウナ・ロアとマウナ・ケアの二つの山をかなり間近に見ることができます。北に見えるマウナ・ケアには、山頂にある天文台群が、はっきりと見えます。周辺は、見渡す限りの黒い溶岩。その溶岩のところどころに、緑の島のように森が残っています。この森はキプカと呼ばれる、溶岩が流れた時に燃え残った場所です。以前、ご紹介したキプカ・プアウル・トレイルも、同じキプカですが、この辺りの方が燃え残った森、という感じがよく分かります。プウ・オオ・トレイルは、このキプカを結ぶ道なのです。
プウ・オオ・トレイルの辺りは、標高が高く、かなり涼しく感じる場所です。アア溶岩(ゴツゴツした状態の溶岩)の間を抜けると、すぐ先に一番始めのキプカが見えてきました。周囲には、かわいらしいリコ・レフア(まだ小さいオヒア・レフア)やオヘロ・ベリーがいっぱいです。溶岩から燃え残った、ということは、キプカは周囲よりも少し高くなっていることが多いようなのですが、プウ・オオ・トレイルの一番入口近くにあるキプカも、小山のようになっていました。木々の高いところでは、アパパネが飛び回っています。アパパネよりも、一回り大きく見える赤い鳥はイイヴィです。小山を降りた先には、パホエホエ溶岩(滑らかな状態の溶岩)の上に草が生えたような場所もあり、キプカというより再生しつつある森、という感じもします。
キプカを抜けると、アア溶岩が一面に広がる場所に出ました。森と溶岩の境目がはっきりしているので、かつて溶岩が流れてきた様子がよく分かります。今では、ハワイ島で溶岩が流れる、と言えばキラウエア火山地帯での火山活動のことを指すようになりましたが、つい最近までマウナ・ロアも火山活動が活発だったのです。1881年には、マウナ・ロアからヒロのすぐ近くまで、溶岩が流れてきました。当時の国王、カラカウア王が外遊中だったため、ホノルルからルース王女が呼ばれ、溶岩の流れを祈祷によって止めたという伝説も残っています。この辺りの溶岩も、マウナ・ロアから流れ出たもの。辺り一面に広がる溶岩は、マウナ・ロアの噴火の規模を私たちに伝えているようです。今は穏やかに見えるそのマウナ・ロアは、なだらかな稜線を描いて目の前にありました。
プウ・オオ・トレイルは、キプカに入ったり、溶岩の大地になったり、を繰り返しながら続いています。1984年という、かなり最近に流れた溶岩によって、プウ・オオ・トレイルは途切れているそうです。私はトレイルが途切れる1マイルほど手前まで歩きましたが、奥へ行くほどトレイルを歩くのが大変になりました。というのも、トレイルの奥の方は、道がはっきり分からず、キプカの中は木に付けられた青いテープを、溶岩の上はケルン(石を積み上げて作った目印)を探しながら歩くことになるからです。溶岩の上の道もなかなか歩きにくく、意外に体力を使いました。しかし、トレイルの入口近くではよく見つけた外来種の植物も、奥へと行くに従って見なくなってきます。パホエホエ溶岩の上を、這うように伸びているのはクカイ・ネネ。クカイ・ネネの黒い実は、ハワイの州鳥ネネの好物です。キプカの中では、ハワイ固有種のベリー、アカラも赤い実をつけています。コアの大木もよく見かけました。溶岩によって土地が隔絶されているため、キプカは外来種が入りにくく、ハワイ固有の植物が多く残っている場所だそうです。プウ・オオ・トレイルは、キプカをホッピングしながら、どんどんピュアなハワイに近づくようでした。 |