ハワイの州鳥は、ネネという雁の仲間の鳥です。カナダガンの亜種ですが、カナダガンが長距離の渡りをするのに対し、あまり長い距離をネネは飛びません。もしかしたら、飛べないのでは、と疑ってしまうほど、飛んでいるネネを見かけることはなかなかありません。水鳥なので足には水かきもありますが、泳いでいることも稀なよう。ネネは、黒っぽいシマシマ模様の羽で、喉からオナカにかけてはクリーム色というシックな装い。ハワイのトロピカルなイメージとは、ちょっと違います。でも、黒い大きな目がとても愛らしい鳥です。
実は、このかわいらしいネネは、絶滅の危機にあります。乱獲や環境の変化により、50年ほど前には、たった30羽ほどにまで減ってしまいました。その後の保護活動で数は増え、野生に戻すこともできましたが、もともとの個体数が少なかったため、生息しているネネは遺伝的に似てしまっています。何らかの病気がネネの間で流行った場合、一気に全滅してしまう危険もあるのです。また、マングースによって捕食されたり、卵をネズミや豚に食べられたりと、現在もネネにとって厳しい状況は続いています。
さて、ハワイを観光していても、ネネを見かけることは、それほど頻繁にはないでしょう。街中やリゾートホテルにいるだけでは、ハワイ島でもなかなかネネに会うことはできません。でも、何度かハワイ島を訪問していると、「ここにはネネがいるぞ」というところが分かってきます。他の固有種の鳥に比べれば、ネネは容易にみつけやすい鳥かもしれません。よく見かけるのはボルケーノ国立公園とその周辺です。ハレマウマウ・クレーター周辺のいくつかのビュー・ポイントでは、よくネネを見かけます。芝草などを食べている姿を見かけますが、ネネはクカイ・ネネやオヘロ・ベリーなどハワイに自生する植物が好物だそうです。しかし、ネネは人間が食べるものも好きなよう。観光用の大型バスが停まるような場所で、よくネネを見かけるのは、ネネが食いしん坊だからではないか、と私は疑っています。ネネは人間がいても、特に逃げたりもしないうえ、「何かエサを」と寄ってくる個体もいるほどです。でも、餌付けはネネにとってはよくないことばかりなので、絶対にエサをあげてはいけません。
ミヤマハッカン(雄)。この鳥もボルケーノ周辺でよく見かけます |
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野生のネネは常に決まった場所にいるわけではなく、ボルケーノ国立公園で地面を歩いている鳥がネネとは限りません。よく聞くのが、ミヤマハッカンという雉の仲間の鳥を、ネネと間違えたという話です。以前、ボルケーノ国立公園の中のデバステーション・トレイルを歩いていた時、メインランドから観光に来たというご夫婦と会いました。彼らは陽気に「イリノイ州から来たのよ」と自己紹介をしていましたが、突然「あ、あれを見て、あれは州鳥よ!」と指をさしました。見るとミヤマハッカンがのん気にエサを探しているところでした。私は「イリノイ州の州鳥がミヤマハッカンなのかな?」と勘違いしてしまいましたが、一瞬おいて、ネネとミヤマハッカンを間違えているのだ、と気がつきました。でも、指摘するのも失礼な気がして、曖昧にニコニコしたまま、ご夫婦と別れました。ところが、しばらくしてから、国立公園のガイドマップに出ている絵を見て、間違いに気づいた奥様が「違うわ、あれはハワイ州の鳥じゃなかったわ」と、わざわざ訂正をしに、私を追いかけて来てくださいました。かえって申し訳なかったかもしれません。ネネとミヤマハッカンの違いは簡単です。目の周囲が赤く、水かきがなければ、それはネネではありません。
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ネネのつがい、右のネネが牛のような声で鳴いています |
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ボルケーノ国立公園の外でも、ネネを必ず、と言ってよいくらいに見かける場所があります。それはゴルフ場です。私はゴルフを全くしないのですが、山側にあるゴルフ場でネネを見かけることが多いので、ゴルフ場の入口や近くの公道へ、ネネを見に行くことがあります。特にボルケーノ・ゴルフ・アンド・カントリークラブでは、ネネが10羽以上の群れを作っているところを何度か見かけました。このゴルフ場は、ボルケーノ国立公園から近く、レストランが併設されているので、ボルケーノ観光の時にランチを食べに行くのにも便利な場所です。ネネたちは、のんびりゴルフコースでくつろいでいるようです。ネネという名前は、その鳴き声から付けられたということですが、むしろ牛の声に似ているような気がします。ゴルフコースで牛の鳴き声がする、と思ったら、それはネネかもしれませんね。
ハワイ州の法律では、ネネに危害を与えると罰せられることになります。しかし故意ではなくても、ネネに危害を与えてしまうことがあるようです。ネネは地面を歩いていることが多い鳥なので、車に轢かれることがしばしばあるのだそう。ネネが多くいるボルケーノ周辺では、ネネにも気をつけて運転しないといけないですね。
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