ハワイ島は、ハワイ諸島の中で、最も南にある島です。だからハワイ島の最南端は、ハワイ諸島にとっても最南端。それだけでなく、アメリカ合衆国の中でも、いちばん南の土地ということになるのだそう。そう聞くと、どんなところか、行って見たくなりませんか。
ハワイ島の最南端は「サウス・ポイント」と呼ばれています。サウス・ポイントへ行くには、コナからもヒロからも100キロ以上ドライブしなくてはいけません。どちらから行っても片道2時間以上のロング・ドライブです。しかも、サウス・ポイント周辺は、町どころか集落さえあまりない場所なので、「いちばん南に行くのだ!」という強い信念を持って、向かうことが必要かもしれません。と言うのは、大げさですが、私はよくコナからヒロへ(あるいはヒロからコナへ)向かう途中、「ちょっとサウス・ポイントへ寄ってみよう」と思うのですが、いつも途中で寄り道をしすぎて、サウス・ポイントへ向かう時間がなくなっています。やはり、サウス・ポイントは、「ちょっと寄る」のではなく「強い目的を持って」行かなくてはなかなか行けない場所なのでしょうか。また、ハイウエイからサウス・ポイントへ向かう道は、レンタカー会社によっては、保険が適用外という話も聞くので、ご注意ください。
サウス・ポイントに、いちばん近い町は、もちろんアメリカ最南端の町、ナアレフ。ナアレフは、既に閉館してしまった(アメリカで最も南にあった)映画館と、お店が数軒あるだけの小さな町です。でも、ナアレフを逃すと、しばらくハイウエイ沿いに商店はありません。そのため、サウス・ポイントへ行く人だけではなく、ハワイ島一周などのツアーでもナアレフで休憩することが多いようです。(アメリカで最も南にあるパン屋さん)プナルウ・ベイク・ショップは、ドライブの途中、ひとやすみするのにぴったりのお店です。観光客向けのドライブ・インのような印象を受けますが、実は、ほんのり甘い、スイート・ブレッドが名物のパン屋さん、地元の人たちからも人気のお店です。パンの種類も多く、どれを食べようか迷ってしまうほど。次の日の朝食用に、多めに買ってもいいですね。
ナアレフで休憩したら、いよいよサウス・ポイントへと向かいます。ハイウエイからサウス・ポイントへと向かう道は、牧場を抜けるまっすぐな道です。この辺りは、とても風が強いので、道沿いの木々は、風に流されるように斜めになって生えています。強い風を利用するために、風力発電用の風車も、いくつも並んで立っています。でも、今は動かしていないのか、近くで見るとかなり錆びが目立っていました。サウス・ポイントへと向かうこの道は、天気の良い日にドライブしていると、晴れ晴れとした爽快な気分になります。分かれ道を右に曲がると、そこはもうアメリカ合衆国の最南端です。
サウス・ポイント周辺は、昔から良い漁場として知られてきました。現在のサウス・ポイントも、やはり地元の人たちが集う釣り場のようです。岸壁からは、たくさんの釣り糸が海に向かって並んでいます。丸い大きな浮きが浮かんでいるのは、大物狙いの釣り糸でしょうか。船を海に下ろすための機械が崖に取り付けられているので、こわごわ崖の下を覗くと、ボートが接岸されています。この辺りは、潮の流れが早いそうなので、船はしっかり岸壁にロープで結ばれていました。古代ハワイアンも、この岸壁に船をつないでいたようです。崖には、船を係留するために使ったと言われる、穴が開いていました。
よい漁場であったため、その昔、サウス・ポイントには、古代ハワイアンの大きな集落がありました。サウス・ポイント周辺には大きなヘイアウもあり、考古学者の篠遠喜彦博士が初めに発掘調査を行ったのも、ここサウス・ポイントだそうです。篠遠博士は、サウス・ポイントでたくさんの釣り針を発掘し、釣り針によって年代を分けるというポリネシアの考古学の基礎を築かれました。今でも、サウス・ポイントは、何もない荒涼とした場所ですが、篠遠博士がサウス・ポイントで発掘作業をされた頃は、更に何もない場所だったことでしょう。ホームシックになった篠遠博士は、当時はまだ稼動していたナアレフの映画館にも行かれたそうです。
ポリネシア人が南太平洋からハワイへとカヌーで渡って来たときに、初めに目にする土地が、ハワイ最南端である、ここサウス・ポイントだったかもしれません。ここは、ハワイ最南端というだけでなく、ハワイの入り口でもあったのですね。サウス・ポイントから青い海を眺めながら、カヌーで航海してきたポリネシアの人々を想像してみるのでした。
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