前々回に続いて、番外編のカウアイ島での体験談です。
美しいビーチの多いカウアイ島ですが、実はトレッキング天国でもあります。トレッキングを目的に、カウアイを訪れる旅行者も多いよう。特に、ワイメア渓谷で有名なコケエ州立公園とその周辺には、たくさんのトレイルがあり、装備ばっちりのハイカーから、ちょっとだけ歩いてみたい旅行者まで、様々な人たちが、トレッキングを楽しんでいます。中でも有名なトレイルは、アラカイ湿原を抜けるアラカイ・スワンプ・トレイルです。
ワイメア・キャニオン・ロードをどんどん上った終点が、プウオキラ展望台です。プウオキラ展望台からの景色は、カウアイ島の顔のようなもの、カウアイ島を訪れる人のほとんどが、一度は見に来る場所でしょう。でも、この展望台を訪れる人々は、大きく二分されます。展望台からの風景を堪能して引き返す人と、ハイキング・シューズを履いてトレイルへと進む人です。さあ、トレッキングの用意ができたら、赤土の崖を下りて行きましょう。
プウオキラ展望台から続く赤土がむき出しになった尾根道は、ピヘア・トレイルという名前です。実は、カウアイ島を一周できる道路を作ろうとした跡が、このトレイルらしいのですが、カウアイの山々があまりに険しく、計画は断念されたそうです。今でもカウアイ島は、車はおろか、歩いてさえも一周できる道はありません。出発から0.5マイル(約800m)ほどで、カララウ渓谷が見渡せる絶景のポイントに着きます。プウオキラ展望台から眺めるのとは、また違った渓谷の美しさを堪能できる場所です。そして「あまり歩きたくない」人は、ここで引き返すのが、いいと思います。というのも、アラカイ・スワンプ・トレイルは、なかなか難易度の高いトレイルだからです。
その第一の難関は、絶景ポイントのすぐ後にやってきます。トレイルの幅は次第に細くなり、行く先を小さな崖が阻みます。崖には、足がかりになる穴も開いていますが、歩くというより、よじ登るといったほうがいいでしょう。しかも雨が続いた後は、ただでさえ滑りやすい赤土がドロドロになり、足場を探すのも大変です。ハイキング・シューズは、既に赤土色に変わってしまいました。「ああ、どうして軍手を持ってこなかったのだろう」などと、装備不足を後悔するのもこの辺りです。それでも余裕のある人は、ピヘア展望台へ寄り道をしましょう。ピヘア展望台へも、ロック・クライミングさながらの赤土崖登り。でも、展望台まで来ると達成感もあり、そして「これからホントにアラカイ湿原へ行くのか?」と自分に問いかけることもできます。何しろ、道のりはまだ半分も来ていないのです。
カウアイ島名物の赤土に苦しめられてきましたが、トレイルは木道に変わり歩きやすくなりました。ピヘア・トレイルは、途中アラカイ・トレイルと交差しているので、この交差点を曲がってアラカイ湿原へと向かいます。ここで道を間違えるハイカーを、何組かみかけたことがありますが、本土から来た観光客のなかには、信じられないような軽装の人も多く、地図さえ持っていないのです。交差点を過ぎると第二の難関、長い長い階段があります。往路はほとんど下りなので少し楽ですが、帰路はひたすら上らなくてはいけません。細い小川を石つたいに越えしばらく進むと、やっと湿原に出ます。ここがアラカイ湿原です。
実は、私はカウアイ島を訪れる度に、アラカイ湿原へハイキングに行っています。アラカイ湿原への行程は、かなり大変ですが、アラカイ湿原は私にとってまさに楽園。ここでは、標高が高いため、膝丈ほどにしか育たないオヒアが、花を咲かせています。囲む森には、幾種類ものロベリアやアジサイの仲間など、多くのハワイ固有植物を見ることができます。風が吹くたびに葉を揺らすのはラパラパの木。アラカイ湿原を含むこの一帯は、世界でも有数の雨の多い所なので、ラパラパの葉は、少しの風でも雨粒が落とせるようになっているのです。そう、アラカイ・スワンプ・トレイルの一番の難関は、この雨かもしれません。でも雨によって作られた険しい渓谷が容易な開発を阻み、特異な環境は様々なハワイの固有植物やハワイ固有の鳥たちを守ってきたのでしょう。
トレイルの終点、キロハナ展望台からわずかに見えたハナレイ湾 |
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現在アラカイ湿原には、木道が敷かれていますが、この木道が敷かれる前は、この場所で道に迷い、行方不明になった人もいるそうです。木道沿いの植物や、時折現れる鳥たちを楽しみながらも、どこまでも続く木道に少し不安になってきます。雨の日など、誰もいない木道を延々歩いていると、同じ所をぐるぐる回っているような感じさえします。でも、とうとう終点のキロハナ展望台に到着しました。晴れている日はここから、カウアイ島の北側が一望できます。ハナレイ湾やキラウエア灯台までもが見渡せるそうです。残念ながら私は、こんなに何度も通っているのに、ハナレイ湾を霧の晴れ間に少しだけしか見たことがありません。素晴らしい景色を見ることができる確率は、雨の少ない夏季が高いようです。美しい景色を(あるいは、どこが崖かも分からない真っ白な霧を)楽しんだら、同じ道をひきかえします。これまで歩いてきた、幾多の難所を思い出すと、ちょっとうんざり。それでも何度も来てしまうのは、他の島にはない、この雨の楽園の魅力なのかもしれません。 |