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ビーチのある風景 (3)
ミノリ・K・エバンズ

56号線を北上する

 今年の始めまで暮らしていた大阪での生活の中では、海やビーチは渋滞を乗り越えていくところだった。三時間車で走って四時間ほど海を楽しんで、五時間くらいかけて家にたどり着くなんていうのは、当たり前のことだった。でもここでは…当たり前だけれど…海やビーチは暮らしの中にあるものだ。仕事に行く前に、仕事帰りに、放課後にふらっと出かけていくところ。東海岸でもっとも賑やかな町カパアを北上して5分ほど行くとクヒオ・ハイウエイ沿いにケアリア・ビーチ(Kealia Beach)が右手に現れる。ここは我が家の暮らしのすぐ近くにあるビーチだ。私たち(夫婦)も、主人の仕事帰りに待ち合わせして、パコ(犬です)を散歩させたり、彼はサーフィンをしたり、仕事仲間とビールを飲んだり、時には私も波乗りの特訓を受けたりしている。昼間には時間のある者同志、トモダチとふらっと来て、くだらないおしゃべりをしたり、お昼を食べたりすることもある場所だ。


スリーピング・ジャイアントからケアリア・ビーチ方面を望む

 ケアリアの先にあるアナホラ・ビーチや、さらにその先のカヒリワイ・ビーチ、カパアの町にあるカパア・ビーチもまた、ロコたちで集うビーチ。島をぐるりと囲む形でほんとにたくさんのビーチが点在するカウアイだけれど、ロコたちが愛するビーチは、観光客に人気のあるビーチとはひと味違う雰囲気に満ち満ちている。ピジン語(ハワイに移住してきたロコたちの間で独自に発達した英語)が飛び交い、ハング・ルーズ・サイン(こぶしを握って親指と小指だけをぴんと立てる)が飛び交う。一部の観光客が求める上品な静かさとは無縁の、ハワイらしい明るさと笑いに溢れている。何というか、土地にがっしりと根を降ろしたような安心感と庶民的な雰囲気に満ちているのだ。


夕暮れどきのケアリア・ビーチ

 ケアリア・ビーチで夕暮れのひとときを過ごしている中で、ときどき、小さな少年が一人で、あるいは数人で、ビニール袋を手にビーチでゴミを拾っている姿を見かけたりもした。「アルバイトでもしてるの?」と聞いてみたところ、ボランティアだよと少年は言う。「ここはMy Beachだから」と。エライなぁと私はちょっと感激してしまった。同時に、たくさんのゴミをビーチ捨てていく観光で来る大人たち(ロコの人もいるけれど)は、反省してほしいと思った。島の人はお気に入りの場所を「My Beach」や「My Mountain」と言って大切にしている。都会の子供たちが学校の授業の中で、「緑を大切に」とか「地球に優しく」なんて事を概念として机上で教えてもらうのとはまったく違う。生まれた時から、海に、山に遊ばせてもらっている中で、自然を敬い尊ぶ気持ちを自然から教えてもらう。自分の家の庭を掃除する感覚で海辺を掃除できるなんて、何て健全なことなんだろうと思ったのだった。

 幼い頃に泳ぎを習ったところ、初めてお父さんにサーフボードに乗っけてもらったところ、トモダチといつも放課後を過ごしたところ…ロコたちにとって、これらのビーチは写真アルバムのような場所であるのだろう。大人になった時に、自分の思い出とともにあるビーチが昔と同じ形のまま残っていて、自分の子供もまたそこで泳ぎを習い、初めてサーフボードに乗っかる。そんな場所が自分の人生の中にあるなんて、何てステキな事なんだろう。私もこれから、私たち家族のいろんな思い出をビーチに刻んでいくのだと思うと、ワクワクと楽しい気分になるのだった。

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