ワイルア・リバー沿いに建つ「ワイルア・マリーナ
・レストラン」 |
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リフエの町に住むアンティ・ケイは、私のダンナさん、ウォーレンの古くからの知り合いである。もうずいぶん前のことになるが、彼女の家の一部屋を間借りしていたこともあって、ウォーレンとケイは、家族ぐるみのつきあいをしてきたようだ。日系人のケイは、片言の日本語を話す。私がこちらに越してきてケイの家へ初めて遊びに行った時、「イツデモアソビニイラッシャイ」と言ってくれたのが、とても嬉しく、心強かった。「ワタシモ、ニホンゴ、ハナセルト、ウレシイヨ」と言ってくれた。いまはリタイアをしてしまっているが、以前はずっとクック(料理人)としてレストランで働いていた。ウォーレンによると、彼女の作る料理は絶品らしい。たまに彼女の家に顔を出すと、自家製の漬け物やら、ちょっとした前菜などを持たしてくれるが、ほんとうにどれも美味しい。一度、ケイを家に招いて、ロコモコにかけるグレイビーソースや、ビーフ・トマト、甘酢漬けに似ているダイコンの漬け物など、ケイのロコ料理を伝授してほしいと思っている。ケイも「イツデモ、オシエテアゲルカラ、デンワシテキナサイ」と言ってくれているが、残念ながら、今のところ、まだ「ケイの料理教室」は実現していないのだ。
ケイの80歳のバースデー・パーティが、ワイルア・リバー沿いにある「ワイルア・マリーナ・レストラン」で、先日、開かれた。私たちもお誘いを受けて、ギフトを片手に出かけてみた。「ワイルア・マリーナ・レストラン」は、1968年にオープンした、多くのロコに愛されているレストラン。シダの洞窟行きのボートの発着場所の隣に位置するため、観光客でも賑わうが、夕方になるとロコたちの姿が増えてくる。美味しくて、リーズナブルと定評のあるお店だ。店内は、インサイド席とテラス席に分かれているが、互いの席を仕切っているのは背丈の低い、石垣からなるパーテーション。どこに座っていてもワイルア・リバーの風景が眺められるのが嬉しい。出かけてみると、パーティはこのテラス側を貸し切って盛大に行われる様子。家族だけの小さな夕食会を(勝手に)想像していた私たちは、ちょっとビックリ。な、なんかもう少し、ちゃんとした格好でもしてきたら良かったのかな、とほんの少し気持ちが後ずさってしまった。
受付テーブルの横には、すでに沢山のレイを首にかけたケイがにっこり笑って座っていた。「お誕生日、おめでとうございます」と日本語で言うと、「アリガトウ。モウ80サイ」と言って笑っていた。いつも身なりをきちんとしているケイであるが、この日はとくにオシャレをして、なんとも若々しい80歳ぶりである。パーティには、ネイバーアイランドやアメリカ本土に散らばっているファミリーたちも駆けつけて、子供や孫、ひ孫たちが集まっている。たくさんの知り合いや友人も集まって、日が暮れてくるとともに、どんどんと賑やかさを増していった。
テラス席を貸し切ってのパーティ。船上にいる雰囲
気 |
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しばし、PUPUS(ププス=前菜)の、ポキ(生のマグロのブツ切りをごま油などで和えたもの)や寿司、ワンタン・フライ、カニカマのフライなどをつまみつつ、各自が何となく席に着いていく。ワイルア・リバーから、気持ちの良い風が吹いて、水面は夕暮れ時どくとくの静寂に包まれて、心地の良い時間が過ぎていく。しばらくして、バンドが登場し、ハワイアン・ミュージックの演奏が始まる。数曲を終えたところで、ケイの孫が「グランマ、お誕生日おめでとう」と、勉強中のウクレレの演奏とハワイアンの唄を披露した。それに合わせて、彼のガールフレンドがフラを踊る。これがなかなかの演奏と唄で、休憩中だったバンドのメンバーも急遽、マイクの前に戻って、演奏に加わる。ハモリで唄に加わる。ケイは少し離れた席から、孫の演奏を楽しんでいた。と、突然、うしろから肩をワシ掴みにされてビックリ。「な、な、いいだろ、アイツの演奏。おれだったら、あいつを専用バンドで雇っちゃうなぁ」と、興奮してアピールしてきたのは、ケイの息子。ハワイアン・ミュージックを披露している孫の父親である。あとで、「雇うって、あの人、レストランか何かやってるの?」とウォーレンに聞くと、「いや、大工」とのこと。親バカぶりに苦笑してしまったけれど、でも、ほんとうにいい演奏だった。「Happy
Birthday♪」が演奏されて、みんなで合唱。ケイの周りを娘や息子、孫たちが囲んで、キャンドルの火が吹き消されるのを見守っていた。拍手で祝い終えたあとは、家族が次々とケイをハグして、80歳のバースデーを祝福する。
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ハワイにいると、大家族というのをよく目にする。日本でだと、「大家族バンザイ!」なんていう2時間番組にでもなりそうな大家族は、ここでは、たいしたトピックでもない。そして結婚して子供が出来るのが早いせいか、孫はもちろん、ひ孫まで、4世代が元気に暮らしているということも、珍しくはない。こうやって、家族が集まって、80歳になるグランマの誕生日を心から祝っているのは、なんだか、こちらまで気持ちが温まってくる光景である。核家族中心の暮らし、少子化の日本では、もうあまり見られなくなった家族の姿がここにはまだまだ、たくさんある。そんな風に、自分には見慣れない家族の姿に接することが多くなったせいか、ハワイに移住してから「家族」というものについて、少し考えてみたりするようになった私である。
陽がとっぷりと暮れて、夜空に星が出始めた頃、何気なく始まったパーティは、ゆるゆると心地のいい雰囲気の中で、何気なくお開きとなったのだ。
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