12月に入ると、南の島ハワイにもクリスマス・ムードが押し寄せる。町のショッピング・センターや、レストラン、車で通る道路沿いに並ぶ家や、ご近所も、それぞれイルミネーションを灯して、クリスマスをお祝いし始める。そんな中で、毎年12月の第1金曜日に開催されるクリスマス・パレードは、ホリデー・シーズンの到来を喜ぶ大きなイベントになっている。リフエの町にある「RICE
STREET」(ライス・ストリート)という道を閉鎖して、パレードが行われる。参加するのは、地元のスクールや銀行やその他の企業、教会、消防署....と、ともかく幅広い。それぞれが「フロート」(日本のお祭りでいう、山車にあたるものでしょうか)と呼ばれる、パレード行進に使う車をクリスマス仕様に飾って、「いつもありがとう!」「これからもヨロシクね」「楽しいホリデーシーズンを!」とアピールをしながら行進するのだ。
パレードの始まりは6時から。ライスストリート沿いにある「ACE HARDWARE」(エースハードウエア)というお店の前から、ライスストリートがハイウェイにぶつかる少し手前の「カウアイ博物館」まで。実は、パレード見物は、私にとって今年が初めて。人ごみを予想して、少し早めに現地に到着したものの、すでに沿道はすごい人だかり。ビーチチェアを用意してきている人がほとんどで、もちろん軽食なんかも片手にパレード見物に備えている「慣れっぷり」である。そ、そ、そうかぁ、そんな準備がいるのですねっ、と思ってみてもすでに手遅れ。私とウォーレンとトモダチ4人組は、すごすごと沿道の段差になっているところに座り込むことにした。「ねぇねぇ、これだけたくさんの人が食べ物を手にしてるってことは、けっこう長丁場になるんでないの?」と私。「まさか〜、エース(エースハードウエアを略してこう呼んでいます)からカウアイ博物館までなんてすぐだよ。通常なら車で5分の距離。長丁場になんてなりようがないよ」とキッパリ言い切るウォーレン。その顔に少し不安がにじんでいるのを、しっかりキャッチする私。
....それから30分後の6時30分。まだパレードは始まる気配もなし。そういえば、花火大会の時は、2時間近くもスタートが遅れたんじゃなかったっけと思う私。もうお腹すいてきちゃったなぁ。パレード見物はなしにして、どこかに夕飯でも食べに行こうかなぁと思っているところへ飛び込んできたのが、日本から来ていたトモダチのシオリちゃんの、パレードを待つワクワク顔である。いかんいかん、ここは耐えるのだっ、と思い直す私。そんなことを考えていると、何やら向こうの方でパレードの始まる気配がした。私たちがいたのはちょうどエースハードウエアとカウアイ博物館の中間地点。「あっ、始まったんじゃない!?」と腰を上げてみると、小さな赤い車がたくさんのイルミネーションをつけてこちらに走り始めた。パレードの始まりだっ、ヤッタ!と喜ぶ私たち。この時、私と、そしてたぶんウォーレンの気持ちには、これで間もなく、夕飯にありつける
のだね、という喜びが少し混じっていたように思う。
パレードが始まってすぐに、夕飯までには、はるか遠い道のりであることに気づいた。先頭を切ってやってきたのは、イルミネーションで車体を飾った消防車。続いてワイメア・ハイスクールのマーチングバンド。市長夫妻を乗せたフロートが続いて、それから、次々と、趣向を凝らしたフロートがやってくる。その速度というと、人の足でゆっくりゆっくり歩くくらいである。加えて、ちょうど中間地点となる私たちがいた場所では、いったん停まってパフォーマンスをするグループも多い。フロートには数人の人がついていて、沿道にいる子供たちにキャンディなんかを配ってまわっている。時々、知った顔がフロートの上に見られたりして、手を振りあって、ホリデーシーズンの到来を祝い合う。途中、あまりにもお腹が空いてしまったので、子供にキャンディを配りに来た人に、無理矢理、手を出してキャンディをもらう。なんという大人気のない行動だろうと反省しつつ、甘いキャンディをなめていたら、うしろで子供がもらったチョコレートをせびってもらっているウォーレンの姿が目に入った。もっと最悪。な、な、情けない夫婦である。
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それからさらに30分もする頃には、すっかり空腹だったことも忘れて、パレードに夢中になって、沿道で飛び跳ねたり、カメラのシャッターを押している私たちがいた。どんどんやってくるイルミネーションのフロート。その上で手を振る子供たちや人々。一緒に練り歩く人々。連れて歩いている犬も、この日ばかりはトナカイになっていたりして。あとで聞くと、今年の参加フロートは、なんと54台。ライスストリート沿いがまるでイルミネーション・ロードと化して、とてもキレイ、とても愉快。いつもは銀行の窓口でユニホームを着ているアンティも、電気会社のオジサンも、教会の神父さんも、この日はみんなサンタクロースやトナカイや、さまざまな扮装をしてキラキラ賑やか。南の島のクリスマスらしく、イルミネーションにも椰子の木があったり、サンタがサーフボードを片手にしていたりする。田舎の町のイベントならではの手作り感がたっぷりで、私にとっては、ほのぼのとした楽しい夜だった。パレード最終地点になる「カウアイ博物館」のまわりでは、カウアイ・クラフトが約50店舗並ぶのも、このイベントの売りである。知人が教えてくれたところによると、どのお店も「Made
in Kauai」のものしか売れないらしくて、出店にあたっては、「カウアイ博物館」の厳しい審査を受けるという。ざ、残念ながら、パレード直後にレストランに直行した私たちは、このカウアイ・クラフトを楽しむことはできなかった。腹ごしらえも終わって、さぁ、クラフトを楽しむぞと行ってみると、すでに店じまいを終えているところがほとんどであった。パレードからの帰り道、そういえば、あちらこちらの家でイルミネーションの点灯が始まっていることに、改めて気づく。この翌日、冬用のブランケットをクローゼットから取り出した。山際にある我が家で、寒がりの私は、朝夕はセーターを羽織って、厚手の靴下を履いている。カウアイにも、すっかり冬がやってきた。
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