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鳥の巣。

ミノリ・K・エバンズ
鳥の声で目が覚めるほど、たくさんの鳥がやってくる

 とある日、ベッドルームの裏ドアから続くラナイにたくさんの枝が落ちていた。前夜に吹き荒れた強風が、お隣の庭からこんなにたくさんの枝を運んできたのか、予想以上にすごい強風だったんだなぁと思った。思ったけれど、頭の隅では「それにしても、なんだか奇妙だなぁ」という「?」マークは残っていた。隣家といえども、庭の枝葉が飛んでくるほどの距離にはないし、庭から飛んできたにしては、何かがおかしい。それでもあまり深くモノごとを追求しない性格も手伝ってか、「そのうち掃除しようっと」くらいに思っていた。数日経ってもまだ、「そのうち掃除しようっと」という気持ちにこれっぽちも揺らぎはなかった(つまり数日経った時点でも、まだヤル気はぜんぜんなかったということですね)。とはいえ、一応、主婦の面子もあって「この枝たち、掃き掃除しないといけないんだけれどね〜」と、「掃き掃除をする気はあるのだ」という意志を見せつつ、ダンナに向かって、掃除しないでいる怠慢への言い訳(になっていないけれど)をつぶやいてみた。すると、「あ、それ、絶対に掃除しちゃダメだよ」とダンナ。(え、掃除しなくていいの?)という嬉しさがブブっとこみ上げてきたものの、そんな素振りは見せずに、「え、掃除しなくちゃダメでしょう。どうして掃除しちゃいけないの?」と聞くと、「それは、どうやら、鳥が巣作りのために、材料をそこに集めているみたい」だという。「うっそだ〜い」と私。「これはさ、前の日の強風で運ばれて来た、お隣の庭からの枝だよ」というと、「ボクも最初はそう思って、ぜんぶきれいに掃いてしまったんだけど(さすがに、怠慢な私とは違ってヤルことが早い)、次の日になったら、また同じ場所に枝が集まってたんだよ。その前の日は風なんて吹いてなかったのに」...それで集められた枝やら、その場所やら、角度やらをいろいろと観察してみた結果、これは鳥が巣作りのために集めているんだなという結果に至ったらしい。それにしても、一晩でこんなに集められるの?というくらいの量である。それを、一度、全部、ホウキで掃かれたのにもかかわらずに、また同じだけの量を一晩で運んできたなんて、ちょっと信じられない。私がそういうと、「ほんとうにビックリするやら、二度手間をかけさすハメになって申し訳ないやら」で、ウォーレン(ダンナです)は、ちょっとヘコんだ気持ちになったらしい。そういうこともあって、「絶対に、触れてはダメ」宣言が私には出されたのである。

ラナイの一画に集められた枝

 私の方は、そうか、掃除しなくていい大義名分が出来たのかと顔がほころんだ。そしてまた数日後、その日は心地良い風が吹いて、昼のひととき、私は何となくラナイに座り込んで、ボーと青い空を見上げていた。すると、鳥(種類とかはまったく分かりません)が一匹やってきて、木の柵にとまり、チロっと私を見て(たぶん)、すっとラナイに降りてきたと思ったら、枝を一本くわえて飛び去っていった。一瞬、心の中が「シーン」と音を立てて静かになったあと、ブクブクブクと泡が立つように、今度は気持ちが興奮した。「す、すごい」と思った。鳥に詳しい人には、すごいことでも何でもないのかもしれないけれど、鳥のことをまったく預かり知らぬ私には、それはすごい、いや「すっご〜い」ものを目の当たりにした気分だった。そうか、あんな量の枝を、一晩で集めてきたのか、という感動。それを事情の知らぬ人間にきれいに掃かれてもまた、同じ量の枝を同じ場所に一晩で集めたのか、というまたしても感動。そして、それらの一本一本は、いま、自分が目の当たりにしたように、口にくわえて集めたのか、という尊敬。いったい、何往復したんだろうか、それを続けて二晩もやったんだなぁ、というはたまた尊敬。鳥のことをこんな風にすごいと思ったのは、人生で初めてだった。きっと、どんな生き物も、その営みを知ればそこにはきっと、いろいろな感動があるんだろうな、と思ったのである。

なんだか不格好に見えるけれど、完成したらしい鳥の巣

 それから一ヶ月。いまもまだ、その枝たちはラナイにある。同じ場所に、同じように山積みになっている。あの日の感動と、尊敬の念はどんどん薄らぎ、「いつになったら巣を作るんだ?」という、疑問の渦。そろそろ、私も掃除がしたいぞという手前勝手な都合。鳥にしてみても、巣を作る時期、子育ての時期、というのがあるはずなんだから、いくらなんでもこれはおかしい。「お〜い、もう掃いちゃってもいいかな?」とてきとうにその辺りにいる鳥に聞いても、もちろん答えはあるはずもない。ダンナに「もう掃いちゃってもいいかな?」と聞くと、「いやぁ、向こうにも都合があるから、もう少し様子を見てからでいいんじゃない? まだ必要なのに、また掃いてしまったら気の毒だし」と、これまたとても鳥側に立った意見が戻ってきた。「いやぁ、いったい、鳥は何を考えているんだろうなぁ」とラナイに座ってみるたびに思っていたところ、昨日、発見したのである、「巣」らしきものを。「うぉ〜、こ、こ、これはぁああ」と叫ぶと、「なんだなんだ」とダンナとパコ(我が家の犬です)が走り寄ってきた。私は誇らしげに、「じゃじゃ〜ん、ついに発見しましたぁ。ほら、あそこに鳥の巣がありまっす!」と胸をはって、指差してみた。「あ、そんなの知ってるよ。でもあれで完成かどうかがわからないんだよなぁ」とダンナ。な、な、なんだ、前から知っていたのなら、そうと教えてくれればいいのに。少し腹立たしい思いの私は、「あれで完成だよ。鳥には巣作りをする時期ってもんがあるんだから、理由があって巣を作っているんだから、不格好でもあれで完成なの」と私。それにしてもたしかに、巣には見えない。母親(父親が作るものかもしれないけれど)として未熟なのか、枝集めに二晩費やしてエネルギーを消耗したのか、機能さえあれば完成度にはこだわらいものなのか、真実のほどは分からない。ともかくも、そこから母鳥らしいのが出入りする姿も見えたし、「巣」として成り立ってはいるようで、ひとまず安心の私なのである。いまはただ、掃除していいかどうかの合図がほしい、それを望むばかりである。

 いま、これを書いているのは7月の下旬。カウアイはすでに夏の盛りに突入。いろいろなものが芽吹き生まれて、美しい季節を迎えている。我が家でも、隣近所でも庭には色とりどりの花が咲き、小さなひな鳥を連れて歩く母鳥の姿がたくさん見られる。一年を通して、とくに気持ちのいい季節を迎えているカウアイの日々である。


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