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Canoe Blessing ( カヌー・ブレッシング)

ミノリ・K・エバンズ
みんなのエネルギーが入った水をカヌーにかける

 今年のカウアイの夏は暑い。いつもは寒がり、厚着系な私も、この夏はタンクトップ&短パンで過ごすことが多い。ちなみに私の住む家があるワイルア地区は、カウアイ島の中でも雨が多く、比較的、気温の低い地域。ホテルなどの建ち並ぶ海岸沿いでは、エアコンなどがさぞや活躍していることだろうと思う。エアコンと言えば、日本からこちらに移住してからはご縁のない存在となりがちだ。もちろん、スーパーやレストランなどに行けば、「これでもか!」というほどにガンガンにエアコンが効いているものの、家にはエアコンがない。その必要がない。昼間、多少暑いことがあっても、朝夕は気温が下がり、暑さで眠りを妨げられることはほとんどない。そうやって、少しずつエアコンのない暮らしに慣れてきたせいか、旅などでホテルに泊まると、すぐに風邪をひいてしまうようになってしまった。だから、風邪をひかないようにと、予防も兼ねて、ホテル&空港ではもっぱらスエットパーカ&パンツ姿。せっかくのバケーションで旅行に行くのにもスエットパーカ&パンツ姿、何とも色気のない格好である。

Blessingにはカヒコ(古典フラ)の衣装で立ち会う

 9月に入って涼しくなったかというと、そういう気配もなく、まだまだタンクトップ&短パン姿で過ごしている。毎年のことながら、9月は一年を通して“最も”と言ってもいいくらいに、忙しい月である。さまざまなイベントが目白押しなのに加えて、今年はマウイ島、ビッグアイランド島へとフラの旅が続いている。その合い間を縫うようにして、フラのレッスンがあり、フラの儀式や行事がある。喜ばしい話ではないけれど、ここのところ、何度か「お葬式」にもフラのハラウで参列した。誰かの「死」というのは、「旅立ち」の儀式でもあり、その人が歩んで来た人生を「祝福」する儀式でもある。そういう機会には、クム・フラが「祈り」を捧げるお話をしたり、チャントをしたりして、私たちハウマナ(生徒)は、カヒコ(古典フラ)の衣装を身につけて、儀式に立ち会うのだ。人によってお別れの仕方はさまざまだけれど、最近、参列したお葬式はどれも水際で行なわれたので、遺灰はカヌーや人の手で運ばれて海へと還された。余談だけれど、ハワイ語には「さようなら」にあたる言葉がないという。だから、遺灰を捲いて、いい香りのするレイを海に捧げて「A HUI HOU!(また会いましょうね!)」と言って、亡くなった人を送り出す。それから、簡単なPUPUS(前菜)などをみんなでつまみながら、亡くなった人を偲んだりする。涙が止まらなくて泣いている人もいるけれど、その人たちでさえ、泣きながら笑っている。ウクレレがあって、ハワイアン・ソングが唄われて、楽しく、陽気に、亡くなった人の人生を「祝福」するハワイアン・スタイルのお葬式を、私はいつも好ましく思う。どんな人も、「死ぬこと」ばかりは避けられない。誰もが確実にあちらの世界に逝く。自分にその時がきたら、私も「A hui hou!」と明るく陽気に送り出してもらいたいな、なんてことを思ってみたりする。

次世代へとハワイ文化を継いで行く子供のエネルギーがとくに重要だそうだ

 Blessing(祝福)に参加するのは、いろいろな場面がある。最近、参加したのは、「Canoe Blessing」(カヌー・ブレッシング)....アウトリガー・カヌーの新艇の進水式。新艇の名前は、「He Makana Awiwi」。スカイブルーとイエロー・カラーのコンビネーションが目に鮮やかな、美しいアウトリガーカヌーである。参列したカヌークラブのメンバー全員が、クム・フラ(フラの先生)の持参した木製ボールに入れた水に手をつけていく。そしてその水をピカピカの新艇にかける。そうすることで、いまから進水式を行なう新艇に、みんなのエネルギーが入る。日本でもカヌーをやっている人ならば、新艇の進水式を行なった経験はあるだろうと思うけれど、私が経験してきたのは、どれもお酒をかけていたように記憶している。儀式というより、「景気づけ」に近い雰囲気で行なっていた。ハワイの人々とカヌーというのは、古代から切っても切れない絆で、深く濃く結ばれてきた。だから、コア・ウッド製のカヌーがファイバーグラス製になって、現代用にモダンになった今でも、新艇の誕生を祝うというのは神聖な時間なのかもしれない。そして、パドラー(カヌーの漕ぎ手)とフラをする者もまた、深く濃く結ばれているようだ。

水がかけられて、さらに色も鮮やかな新艇

 こうやっていろいろな儀式に参加するのが日常的な、私のハワイでの暮らしは、幼い頃の日本での私の暮らしと重なるところがある。僧侶だった父方の祖父の、私はお気に入りの孫であった。トンネルが開通する、あそこの土地を開発のために掘り起こす、檀家の誰かが亡くなった、いろいろな場面で祖父は「お祈り」を捧げに向かい、そういう場面にはいつも私を連れていった。ふと気づくと、自分が育って来たような日常を、何十年かを経た今、移住した先の異国でそんな幼い日の時間をなぞるように暮らしている。だから、何かの儀式に参加する度に、私は不思議な感覚に軽く見舞われるのかもしれない。ともかく、日常の中で、とても自然なこととして、「死」と「生」を祝福することを経験できること、その暮らしぶりに「豊かさ」と感謝を感じている私である。


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