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ミノリのカウアイ日記

ラナイにお化け?

ミノリ・K・エバンス
 「かあち〜、かあち〜、大変だ、大変だ」と犬の散歩に出かけていたウォーレンが家に駆け込んで来るなり、大声で私を呼んだのは、数ヶ月前のことになるだろうか。「かあち」というのは、私のニックネームとのようなもの。うちの夫婦は、「ハニー」なんて呼ばれることだけは避けたかった私が勝手に決めて「かあちゃん」「とうちゃん」と呼び合ってきた。それがここに来て、「かあち」「とうち」と省略されている。とくに急いでいる場合は、「かあち」と呼ばれる割合がぐんと高くなる。ともかく、数ヶ月前のことではっきりとは憶えていないものの、何か用事をしていた私は、「かあち〜」と大声を発しながら帰ってきたウォーレンに、手を引っ張られてベッドルームからラナイに続くドアの前に連れていかれた。我が家は、真ん中に縦長の箱を置き、その両横に45度の角度で翼のように、縦長の箱をくっつけたような構造になっている。そしてその2階の全面の壁をほぼカバーする形でラナイがついている。ラナイは全部つながっているけれど、1カ所だけ、キッチンの裏ドアとベッドルームをつなげるラナイだけは、そこだけが孤立した形になっていて、夜、星空を見上げたり、朝夕の冷気を感じたりするのにぴったりのプライベートな空間になっている。

振り返ったら、そこにこんな山があった。
 「このドア、開けてみて」とウォーレン。「なんで?」と私。しかも、小声でささやくように言われると、ちょっと薄気味が悪い。「なんでもいいから開けてみて」とまたささやくウォーレン。「だから、なんで?」と私。相手が小声でささやくものだから、私の方まで意味もなくささやき返してみたりしている。数度、そんなやり取りを繰り返した後、とうとう面倒くさくなった私はドアを開けてみた。開けてみたけれど、「・・・・・」。何もない。変わったことは何もない。私が知っているラナイがそこにあるだけである。「もう、何もないじゃな〜い」と私。すると、ぎょっとした顔を作ったウォーレンがドアを開けて、顔を出してからドアを閉める。そして、「あるよ、ある。」と言って、うんうんと声を発せずに首を縦に振っている。「何が?」と言うと、「見えないの? そこにあるよ」とウォーレン。でも私は何も見えなかったんだから。私には見えない。ウォーレンには見える。そしてずっとささやき声。とすると、お化けか何かか? と私が思ってしまっても仕方がない。時間は、まだ夜が明けてから何時間かしか経っていなかったけれど、周囲はすっかり明るく、陰気にお化けなどが出る時間ではない。とすると、陽気なお化けの類い、いや妖精とかそういう類い? と思いつつも、うちのダンナさんはそういうことにはからきし興味のないタイプである。お化けがふわぁんと現れようが、妖精やらが目の前にいても、それらを目に入れつつも何もなかったように見過ごすか、無関心か、という人である。「もう1回、もう1回」と繰り返すウォーレン、もう1回ドアを開けて確かめろということである。しかし、この時点で私は、「お化け?」の類いを想像して、気持ちがすでに折れ始めていた。私はお化けとかが大の苦手である。「いいよ、いいよ、もう。何があるか知らないけれど、知らなくていいから」と言うと、「これは知らなきゃいけないよ。オレなんて、超びっくりしちゃったもんね」と、またしてもささやき返されてしまった。

鳥の巣があったらしい跡だけは見つかったけれど。
 じゃぁ、もう1回とドアを開けて、今度はラナイの真ん中あたりまで出てみたが、やはり何もない。「何もないじゃ〜ん」と言いながら振り向いて、「げげ〜っ!」と驚く私。「な、な、なぁ〜。ビックリしちゃうだろ」とウォーレン。そこにあったのは、床からラナイの柵の高さまでこんもりと積まれた、木屑の山である。ハンパな大きさではない。たしかにビックリした。「な、な、なんだこれ〜?」と言うと、「鳥が巣を作るのに集めたんだよ」とウォーレン。「マジで?」と私。こんなに木屑を集めて、いったいどんな豪邸を、我が家の一部に建てようとしているのか。それにしても、鳥というのはすごいね〜、どれくらいの期間でこれくらいの木屑を集めたんだろう? と言うと、1ヶ月ほど前にラナイをほうきで履いたというウォーレン。その時には、このこんもり山はなかったらしい。じゃぁ、これがたった1ヶ月の仕事なのかぁ、とまたまたビックリした。「すごいだろ〜、犬の散歩の帰りにうちのラナイから木屑が降ってきたんで、ふと見上げたら、こんなことになってるのに気づいた」ということらしい。ともかく我が家にはたくさんの種類の鳥が遊びに来る。地味なのから、色鮮やかなのまでいろいろ。鳥好きな人にとっては、楽しい家だろう。あいにく、私はそんなに鳥に興味がない方である。ただ、鳥が多く訪れる家ではあるが、その鳥の巣を見つめている間、私たちの周辺には鳥の姿はなかった。「で、なんでずっとささやき声で話してるの?」と、さきほどから疑問に思っていたことを問いてみた。「え、あ、ほんとだ。なんか、なんとなく自然にそうなってただけ」とウォーレン。2秒ほど沈黙の間があって、「じゃ、掃除しちゃおう」と今度は元気よく大声を出して、そのこんもり山を片付けてしまった。

そして、一週間後...。
 そして1週間後、「とうち、とうち〜」と今度は私が大声を出した。また、同じサイズのこんもり山が、同じ場所に出来上がっているではないか。こんな大きな山をたった1週間で作ってしまうなんて、どんな鳥が、何匹くらいで関わっているプロジェクトなのか、そしてその目的は? (完成した鳥の巣らしいものはラナイのどこにも見当たらなかった) と、いろんな疑問が頭の中をくるくると行き交った。とはいえ、鳥の観察日記をつけている時間は残念ながら、いまの私の日常の中にはない。いつか、そんな時間が出来たら、じっくりと観察をしてみたいと思う。それにしても、「やるな、鳥」と、我が家を訪ねてくる小さな鳥たちのすべてを、見直す思いで見つめてみたものである。

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