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“バックヤード・ミュージック”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。直訳すると「裏庭音楽」(笑)ですが、その通り、誰かの家の裏庭で奏でられる音楽のこと。家族や友人、知人が集まって「一緒にごはんでも食べようよ」というような機会に誰かが持参したウクレレをポロンと弾き出し、誰かが歌いだすというような、暮らしの中にある音楽。ついでにそれに合わせてフラなどを踊ってみたりする、ハワイでは何気ない、ほんとうに何気ない時間の中にある、とてもステキな時間。日本では、ハワイアン・ライブやハワイアン・フラ・パーティというような形で、少し非日常的な時間になりがちなのかもしれないけれど、ハワイでは毎週末のように、どこかのお家で行われている日常的な光景。それじゃぁ、ハワイに住んでいる人はいつもいつもそんな時間に触れているのかというと、それはそうでもない。同じハワイに住んでいても、住んでいる地域だったり、環境だったりで、そういう時間にはあまり縁のない人もいるのだと思う。我が家の暮らしの中に“バックヤード・ミュージック”があるのは、ご近所さんのおかげ。お向かいの「トキ・ファミリー」と、はす向かいに住んでいる「アンクル・ジム・ファミリーが、私たちの暮らしに“バックヤード・ミュージック”を運んできてくれる。
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「トキ・ファミリー」はカウアイでもミュージシャン・ファミリーで知られているらしい。夕方になると時々、ポロンポロンとウクレレの音、そしてトキ・パパの歌声が風に乗って聞こえてくることがある。そのお隣のアンクル・ジムはハワイアン・ミュージックの愛好家、そして大のパーティ好き。数ヶ月に一度は、裏庭で開催しているだろうか。彼らが友人知人を呼んでパーティをする時には、大きな白いテントが裏庭に張られる。我が家のラナイから白いテント屋根を見つけると、ああもうすぐパーティなんだな〜と分かる。案の定、テントが張られた翌週末には夕方になるとたくさんの車が辺り一帯に駐車して、心地の良いハワイアン・ミュージックが大音量で聞こえてくる。我が家にもお声かけが来るのだけれど、実際に足を向けることはほとんどなく(日を憶えていずに、ついつい出遅れて足をむけられずにいるのです)、いつもその心地よい音楽をラナイで聞いて楽しんでいる。その音楽のクオリティの高さがこれまた素晴らしい。アンクルの友人知人による演奏とはいえ、ベース、ギター、ウクレレ、時にはウッドベースも入るプロの演奏である。もちろん、歌声もハーモニーも素晴らしい。気づくとラナイに出て、月明かりの下でフラを一人で踊ってみたりしている私である(ちょっと気持悪いですよね、すみません -_-')。階下から話し声がして、ラナイのフェンス越しに下をのぞくと、階下を間借りしてくれている住人たちも外に出て、ビーチチェアに腰かけてビール片手にうっとりとその演奏に聞き入っているのが通常。「いいよね〜」と声をかけると、ビールを高く上げて「最高〜!」と満面の笑みが返ってくる。家のラナイで風にふかれながら、ビール片手に最高のハワイアン・ミュージックを聴く…最高に贅沢なひとときである。
アンクルのためにハナレイ・ムーンを踊るアンティ・ロリータ |
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先日、そのアンクル・ジムの70歳のバースデー・パーティのお知らせが来た。知らせてきたのはアンクル・ジムの息子で、「サプライズだから絶対ダディには言わないでくれよ。それからいつも声かけても姿を見ないけれど、今度は絶対に来いよ」となかば強制的なお誘いをうけた(苦笑)。いつもいつもお世話になっているアンクル・ジムの
バースデー・パーティである。「もちろん行く!」と返事をした。ウォーレン(ダンナさんです)が、「忘れないようにカレンダーに書いておいてね」と私に言う。私たちはほぼ「珍しい」レベルで、日にちや曜日などの感覚がない夫婦である。(こう書くと、日にちや曜日の感覚がなくてもやっていける暮らしをしているのかと思われるかもしれないけれど、そうではなくてただほんとうに感覚が欠如しているため、日々への支障が多々あります)
それから一ヶ月が経った頃におなじみの白いテントが立てられた。
「あんなの立てて、どうやってサプライズになるの? どうやって隠しておけるの?」
と疑問を口にした私に、
「今日までがサプライズだったんだって。アンクル、喜んでたってさ」
と、ウォーレン情報。だよね〜、隠しておけないよね〜と私。
当日、車がどんどん集まり始めた頃を見はからって私たちもお祝いのワインを片手にはす向かいのお宅へ。歩いて50歩ほどの距離である。いま住んでいるご近所も、前に住んでいたご近所もパーティをよくやる一帯だったけれど、こういうパーティの類いが行われる時に、「何時から」というお知らせがないことがいまだに不思議で仕方がない。今回も「何時から?」とウォーレンに聞いても、「知らない。てきとうな時間じゃない?」という返事だけが返ってくる。「すみません、てきとうっていうのはたとえば何時くらいのことを言うの?」と聞くと、「5時とか、6時とか、7時じゃない」とウォーレン。でも、そこには3時間もの違いがある。ちなみに私は自他共に認める“時間にルーズな人間”である(お恥ずかしいことです)。その私でさえも「う〜ん、なんというユルさだ」と思ってしまう。そして、そのユルさがまた何とも私には心地よいのだけれど。
けっきょく7時30分頃に出かけた私たち。辺りが薄暗くなって、すでにトキ・パパの演奏が始まっている。「おお〜、やっと顔を見せてくれたな!」と迎えてもらう。B.D.パーティということもあってか、ざざっと見ても100人以上の人が集まっていて、続々と新しい人がかけつけてきていた。長テーブルの端っこに腰をかけていると、アンクル・ジムが来て「来てくれたのか〜、ありがとう!」と「ハッピーバースデー!」とハグ。今日の主人公なのにこうしてかけつけたみんなのところに足を向けている。こういう人柄が、たくさんの友人知人を作っているのだろうな〜。
「70歳のバースデーをアンクルみたいに元気に迎えられるなんてすごいね!」というと、
「あと20年、この調子で行くつもりなんだ」と笑う。いつまでも元気でいまと同じように近所の人気者でいてほしいと心から願う。アンクル・ジムが、今日演奏をする3つのバンドのメンバーを紹介してくれる。「ミノリは、うちのバックヤード・ミュージックが大好きだろ。彼がいつも演奏しているんだ」と誇らしげに紹介してくれる。それで気づいたのだけれど、食事の準備、駐車の整理などにあたっているのは、どうもミュージシャンたちのようだ。オアフからのミュージシャンと、私のクム・フラが同じ地域の出身のようだったのでそれを言うと、どうも2人は知り合いのようである。
ミュージシャンによってすてきなハワイアン・ミュージックが次々と奏でられる |
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参加したみんなは席についたり、その辺をウロウロしたり、フードブースまわりで立ち話したりしながら、思い思いのスタイルでパーティを楽しんでいる。本日のMCはアンクルの奥さんのアンティ・ロリータ。陽気で優しいアンティである。彼女の進行でゲームなどが行われる中、「アンティ! ハナレイ・ムーンをアンクル・ジョンのために踊るよ!」とミュージシャンからマイクで呼び出されて、「あんだって? そんなの忘れちゃってるわよ」なんて言いつつステージ前に出ていくアンティ。チェアに腰かけさせられたアンクルに向かって、すごくてきとうに、でも愛情たっぷりに踊るアンティ。「月だよ、月作るんだよ。次は波、波だ」とミュージシャンに言われながら踊る。その様子を嬉しそうに見ているアンクル。バックヤード・ミュージックに似合うのはこういう踊り。上手さなんて要らないし、作り笑顔も要らない。暮らしの中にあるリアルなフラは、見ているこちら側をハッピーにさせてくれる、すてきなすてきな瞬間を生み出すチカラがある。
そのあとは私ともう一人の女の子がやはりマイクで名前を呼ばれてフラを踊ったけれど、私たちの踊りを見ていた人などほとんどいないと思われるほどに、みんなのテンションはさらに上がっていた(笑)。でもその後ろで、寄り添いながらとても嬉しそうに私が踊っているのを見てくれているアンクルとアンティと目があった。その視線を受けて私もとてもシアワセだった。
その後もパーティはどんどんはちゃめちゃさを増していくばかり。まったくまとまりなく、それでも何だか楽しい中で続くパーティ。このとてつもないユルい時間の中で奏でられる本物のハワイアン・ミュージック。これがまさしくハワイの“バックヤード・ミュージック”なのだ。永遠に続くのか? と思われる雰囲気のパーティ会場をそっと抜け出して、50歩ほど先の我が家に帰る途中、美しい月がアンクルのバースデーを祝うように空にぽっかりと浮かんでいるのが見えた。 |
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