以前にハワイ島の友人からお土産にもらったポテト・チップスがとても美味しくて、間もなく訪ねるロスアンゼルスで会う家族へのお土産にしたいと探していました。袋に書いてあるお店の電話番号へ問い合わせてみたところ、アンティが出てきて「カウアイでは手に入らないの〜」と残念な返答。ヒロにお店をかまえているのですが、カウアイでは売っているお店がないそう。でも送ってもらえると言うので電話口でまとまった数をオーダーしました。
「いますぐに送料が分からないから、郵便局に行って調べて知らせるわ。それでカードで支払ってくれたら、送るから〜」とアンティ。
オーダーした私の方もすっかりそのまま忘れていたのですが、ロスへ行く日が近づいてきて、「あれ!? なんのレンラクもない」と気づいた次第。もう間に合わないな〜、さすがハワイだな〜とあきらめていたところ、昨日、チップスたちが箱でポンっと送られてきました。
「お、届いてるよ〜」とウォーレン(だんなさんです)。
「え、まだお金払ってないよ〜」と私。
「いいね〜、ユルき良き時代が残ってるね〜」と笑うウォーレン。
ほんとうに気持ちの良いユルさだけれど、ちょっと危ないよね、そのまま払わない人もいそうだよね、と思ってしまいました。お店に電話をして「ありがとう、届いたけれど、私たちまだお金払ってないよ」というと、「アイヤイヤ〜。アンティでしょ、電話に出たの。ま〜ったくしょうがないんだから〜」とこちらもユルい調子で娘さんらしき年代の人が対応してくれました。危ないけれど、ほんとうにいいな〜、このユルさ。ちなみに「アイヤイヤ〜」とか「アイヤ〜」というのは、少し年配のアンティやアンクルたちがとてもよく口にする言葉。ありゃりゃ〜とか、あちゃちゃみたいな感じだと思います。字ズラもですが、その口調も、ちょっと間が抜けてて、いい感じです。
そして、けっこう深刻な場面でも、口を大きく開けて「アイヤ〜」。あはは。
先日、年の離れたフラ・シスター(フラを同じ先生から習っている生徒同士)、アンティ・ベティの88歳のバースデー・パーティがレストランでありました。
ハワイのロコの人たちはシニア層の人のことを「クプナ」と呼びます。ハワイ語では「長老」とかにあたる言葉。ハラウの中でも「クプナ・クラス」というのがあるのですが、私はこのクラスのカコウ(アシスタント)役で、週に一回、クプナ・クラスのメンバーと一緒にレッスンをしています。そのメンバーの中で最高齢なのがアンティ・ベティ。ハラウの中でクプナにあたるのはただ単に年齢的なことだけじゃないのよ、とは私のクム・フラが言っていること。人として精神的に成熟していて、若者たちを見守り、敬いを持って「クプナ」と呼べる人たちのことだそう。
アンティ・ベティは、心の中に好奇心いっぱいの少女のままな部分を残しているような人。お年から来るカラダのいろいろな問題はあっても、フラを楽しみたい、暮らしをエンジョイしたいという気持ちがとても強い人です。だから、楽しいことが大好き。そんなアンティ・ベティが私たちハラウのメンバーは大好きです。自分が88歳まで生きることがあったら、あんな風にしていたいな〜とみんな思っているのでしょう。
アンティ・ベティがハワイに移住してきたのは、13年ほど前のことだと聞いています。私とほぼ時期を同じくしての移住です。ある時、当時住んでいた街のスーパーで日々の食材を買っていた最中に、「あら私、何をしてるのかしら。もっとやりたいことがあるわ。楽しんでみたいライフ・スタイルがあるわ」と思ったそう。その場で、食材を放り出して家に帰り、往路だけの片道チケットを買って、バックパックひとつで来た先がカウアイという、ファンキーな(弾けてるという意味で)足跡の持ち主です(笑)。アンティ・ベティが75歳の時のこと。当時はまだ健在だったダンナさんを置いて、子どもたちにも「じゃね!」と言って、一人で移住してきたそうです。いやはや、ほんとうにファンキー。
どうしてハワイだったのかと言うと、若い娘さんだった頃に来たハワイ、習ったフラダンスが忘れられなかったそう。ハワイの空気の中で、フラを踊って暮らす夢を実現しにやって来たのです。以来、13年。ダンナさんのジョンが亡くなったのを始め、いろいろなお別れと出会いを積み重ねながら、いまもワイルアのお家でフラを踊りながら暮らしています。
ある年のクリスマス。各季節ごとに家をきれいに飾るのも彼女の得意分野 |
|
去年、87歳のお誕生日に、「私ね、こうやってフラを踊りながら90歳まで生きてみたいな〜って思うの。あと3年もある。長いわ〜。でも実現できたら嬉しいわ」と、ウフフと笑って話してくれたアンティ・ベティ。あれから1年があっと言う間に経ちました。
アンティ・ベティ。私がクプナ・クラスのカコウになって、週に一度のレッスンを一緒にするようになってから、もう何年が経つのでしょう。もう9年以上が経つのでしょうか。私はあなたがステージの上で楽しそうに、にこやかに笑ってフラを踊っているのを見ると涙が出ます。一緒にフラを踊ってきた時間を思って、そしていつまでもそうやってフラを踊っていてほしいと涙が出ます。いつもありがとうと言ってくれるけれど、こちらこそ、いつもほんとうにありがとう。
クプナさんたちがキラキラと心地よく、そして若い者たちから敬われているハワイは、そういう意味で健全な社会だなといつも思います。クプナさんが強くて、肩身のせまい思いをしないでいい健全さが、カウアイ島の良いところだなといつも思います。
|