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歴史の謎に迫る (1)
近藤純夫

絶海の孤島


ポリネシア人の移動図

 最初の集団移住があったとされるマルケサス諸島からは3,500km、最大の移動とされるタヒチからは4,400km。ハワイはどの島からもはるか彼方にある島でした。ではいったい、この島はどのようにして発見され、どのような理由で民族の移動が行われたのでしょう。

 南半球のサモアからクック諸島、ソシエテ諸島、さらにはマルケサス諸島を経て北上をつづけてきたポリネシア人は、長距離航海術にすぐれた海洋民族であったたと言われています。とはいえ、ハワイ諸島ははるか彼方にあるという以前に、そもそもハワイ諸島の情報がありませんでした。いったいどのようにして彼らは島の存在を知り、そこにたどりついたのでしょうか。

長距離航海のエキスパート


移動に使った双胴のカヌー

 ポリネシア人は天文学を利用した天文航法に長けていたと言われています。北極星や南十字星の果たす役割を認識していたので、自分たちがどこにいるかということを確認できたのではないかというものです。たしかに定まった航路であれば、それは十分に役立ったことでしょう。およそ12世紀から14世紀にかけ、ポリネシア人たちはそのようにしてタヒチやマルケサス、サモア、クック諸島などを行き来していたと推測されています。


サメの歯や人骨を使った昔の釣り針

  しかしマルケサスから最初のポリネシア人集団がハワイへ渡ったのは5世紀から7世紀の頃です。航海術にそれほど大きな変化がなかったとしても、はっきりとした情報のない場所へ行くというのは簡単なことではなかったはずです。当時、彼らは海図のようなものを利用していたことが知られています。木の枝や貝殻、石などを利用して自分たちの航路を把握していたようです。しかし、当時彼らが持っていた情報は東南はイースター島やニュージーランド、北はマルケサスの周辺まででした。

なぜ航海をしたのか


かつてのサモア、アポリマ島の光景

 それ以上に不思議なのは、なぜ彼らは長距離航海を続けたのかということです。どのような理由で彼らは移動をつづけたのでしょうか。そして、どのような確信を得て、まだ見ぬ島への航海を行おうと思い立ったのでしょうか。これは大きな謎です。島の発見史にはときおりあるように、たまたま難破船が漂流の末に偶然ハワイ諸島のどこかに流れ着いたのかもしれません。彼らはなんとか故郷に戻り新島の存在を知らせたのでしょうか。


ポリネシア文化最大の情報組織ビショップ博物館

 ホノルルのハワイ・マリタイム・センターにはホクレア号という、全長が十数メートルのカヌーが係留されています。これはかつてポリネシア人が太平洋を航海したときに使っただろう双胴のカヌーを復元したものです。こんなに小さな船で何千キロという距離を航海できるとは信じがたいですが、それ以上に、無線やレーダーもない状態で、どのようにして島の存在を知ったのでしょう。島探しに失敗したなら、引き返す距離のことも計算に入れなければなりません。

渡り鳥のヒント


カヌーを漕ぐヘルメットをかぶった戦士たち

 最初に書いたように、マルケサスからハワイまでは3500キロメートルもの距離があります。しかし、ポリネシア人たちにはなにがしかの情報があり、それが彼らを長い航海に駆り立てた。そのきっかけはなんだったのか。ヒントのひとつは渡り鳥だったでしょう。マルケサスでは秋になると北から渡り鳥がやってきます。最初は数羽だけ。数日後に大群がやってきます。群れの到来に数日の時差があることを考えると、かなりの長距離を飛んできたということがわかります。

かつてのワイキキの光景

 しかし、当時は、マルケサスより北に島の存在は知られていませんでした。情報はないが、北には陸地があるに違いないということを彼らは知ったわけです。渡り鳥たちは疲労困憊していました。この事実からもうひとつ推理を働かせると、鳥たちはかなりの距離を移動してきた上に、休むことなく飛びつづけてきたというを教えてくれます。途中に羽を休める陸地がなかったということです。つまり、北のどこかにまだ見ぬ土地があるが、それははるか彼方に違いないと考えたのです。

 この他にも、たとえば自分たちの知らない植物が鳥の羽毛に付着していたり、海流に乗って漂着したのに彼らが気づいた可能性もあります。しかし、なぜそれだけの情報で彼らは長距離航海を決意したのでしょうか。仮におおよその方向が分かったとしても、数千キロも離れた場所からどのように正確にその場所を見つけることができたのでしょうか。気の遠くなるような距離、漠然とした情報、ポリネシア人たちはさまざまな障壁を乗り越えて島を見つける旅に出たのでした。

 次回は島を発見するまでに彼らが乗り越えなければならなかった事柄を考えます。

第1回 ダイヤモンドヘッドに登ろう (1) 2002年8月1日
第2回 ダイヤモンドヘッドに登ろう (2) 2002年8月15日
第3回 風と雨と虹の話 (1) 2002年9月5日
第4回 風と雨と虹の話 (2) 2002年9月19日
第5回 花物語 (1)

2002年10月3日

第6回 花物語 (2) 2002年10月17日
第7回 火山と溶岩 (1) 2002年11月7日
第8回 火山と溶岩 (2) 2002年11月21日

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