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キラウエア火山地帯最大のキラウエア・カルデラ |
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マグマとその動き
ぼくは長くマウナロア山をフィールドとして活動してきたので、ハワイ島の火山国立公園の案内板が見えると、ああ、また帰ってきたんだなという気になります。火山というのは災害と直結したイメージが強いですが、ハワイ島ではむしろ親近感さえ感じられます。それはなぜでしょう。
現在はキラウエア火山の先にあるプウ・オー・オー火山が噴火活動をつづけていますが、ハワイ島では爆発的な噴火が滅多に起こらないため、間近で火山活動や熔岩流の観測を行えるからです。たとえば、国立公園内に事務所を持つ米国地質調査所(USGS)では、定期的にプウ・オー・オーの火口から溶岩を採集して、粘性や成分などを分析しています。こんな作業は日本では考えられないものです。これは溶岩の粘り気(粘性)がとても少ないせいです。(*1)
*1 詳細はバックナンバーの「火山と溶岩(1)」をご覧ください。
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マグマは上昇してプウ・オー・オーの火口から噴き出す
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キラウエアのカルデラの縁には100年以上も昔から研究所が作られ、観測が続けられています。また、ボルケーノ・ハウスというホテルが当時から観光客を迎え入れてきました。あのマーク・トゥエインも著書でこのホテルに触れています。それによれば、かつて、このホテルのすぐ近くを熔岩が流れていたため、夜間に熔岩見物をする宿泊客の安全を考えて白くペイントした道標を置いていたのだそうです。わずか半世紀前まで、キラウエアは広大な熔岩の湖だったわけです。
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海に流れ落ちる直前の溶岩
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キラウエアにはいくつものクレーターと呼ばれる大陥没地形があります。かつてこれらのクレーターには、ホットスポットと呼ばれる地下数キロメートルにあるマグマ溜まりから熔岩が噴出していました。直径が1000m近くもあるキラウエア・カルデラの巨大な火口も真紅の熔岩が沸騰していた時代があったのです。
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海に注いで巨大な噴煙を上げる溶岩
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クレーター群はキラウエア・カルデラを基点に東へとつづき、チェーン・オブ・クレーターズと名づけられています。これらクレーター群の周辺にある熔岩(流)は噴出してからわずかに10年とか20年といった、ごく最近のものもあります。もちろんその下(地底)には、それよりも古い溶岩流の地層が累々と横たわっています。
新しい溶岩流地帯ではほとんど植物らしい植物も見られません。黒々とした熔岩が広がるだけです。活動をつづけるプウ・オー・オーの南麓へ行くと、ところどころで火山ガスが噴き出し、それが火口から海まで続いているのを確認できます。この原稿を執筆している時点では溶岩流は海まで達していませんが、数ヶ月前までは数キロメートルの距離を地下の空間を移動して流れ落ち、海岸線で海水と接触して巨大な噴煙(水煙とは言いません)を上げていました。
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噴き出した溶岩を直接採集する
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ハワイ諸島には八つの主要な島があります。地図を広げてみるとすぐ分かりますが、ハワイ諸島の北西には北西ハワイ諸島と呼ばれる島々がさらに1000km以上も伸びています。ハワイ州全体では小島や岩礁を含め130近くの島が点在しています。ハワイは多くの島で構成されているということです。
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採集した混じり気のない溶岩
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島々は地球が誕生したときからその場所にあったわけではありません。現在のハワイ島の地下深くにはホットスポットと呼ばれるマグマ溜まりがあって、ここから地殻を破り、マグマが地上に噴出しています。一方、地球の表面を形成する地殻と、その直下のリソスフェアは少しずつ西へ移動しています。これをプレートと呼び、ハワイ諸島が乗っているプレートを太平洋プレートと呼びます。ちなみに、リソスフェアの下にはアセノスフェアがあり、このふたつを合わせて上層部マントルと呼びます。
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地殻と地球の内部 |
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プレートの移動スピードは意外に速く、年に6cmから10cmほどです。つまり100万年が経てば60kmから100kmも移動するということになります。この速度の法則でハワイの島々は北西へ北西へと移動しつづけてきました。最西端に近いミッドウェーは島が誕生してから3000万年近く経ちますが、上の式を当てはめると1800kmから3000kmも移動したことになります。
この数字はあまりに巨大で、わたしたちの感覚では捉えきれないように思えますが、このように考えてみてはどうでしょう。年に10cm動くとすれば、たとえば10年前にハワイのある場所に立った人が、今年同じ場所に立った場合、地球上から観察するなら、じつに1mも異なる地点に立っていることになります。島が1mも移動したのです。ハワイ諸島は絶え間なく動きつづけているのです。
次回はなぜプレートは移動するのかをお話しします。
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