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ハワイのことば(1)
近藤純夫
ハワイの主要な標識にはハワイ語が併記されている。
ハワイ語とポリネシア語
 赤道から南太平洋に広がる島々は、大きくメラネシア、ミクロネシア、ポリネシアに分かれます。ハワイ諸島は地理的にはこれらの地域に属する島々から遠く離れてた北回帰線直下に位置します。しかし、ハワイ人の先祖はポリネシアに属するマルケサスやタヒチからやってきたので、彼らもまたポリネシア人ということになります。したがってハワイ語はポリネシアに広く浸透しているポリネシア語のひとつの形なのです。

カメハメハ1世
 たとえばハワイ語とタヒチ語は厳密に単語を比較するとそれほど一致するものは多くありませんが、簡単なフィルターを通すと、ほとんどのことばがタヒチ語と類似していることがわかります。「タヒチ」はTahitiとKahiki、「タロイモ」はTaroとKalo、「タブー」はtabuとkapu、「私の」はto'uとko'u…というように、「t」を「k」に置き換えるだけで済みます。

 同じことは「s」と「h」、「v」と「w」などの関係についても言えます。ここで「ハワイ」という固有名詞についてお話ししておきましょう。ハワイという国名は、カメハメハ一世が全島を制覇したときに彼が考案して名づけたことになっています。しかし、この名前にはたしかな語源があります。ポリネシア人は南アジアから太平洋に進出してきた民族と言われていますが、民族が広域に広がる前線基地となったのがサモア諸島でした。現在の西サモアにはSavaiiという島がありますが、ここがハワイの名の由来である可能性はとても高いと言えます。ポリネシア語とハワイ語の語変換の約束事を当てはめると、SavaiiはHawaiiとなるからです。ちなみに、Hawai‘iは「ハヴァイ(イ)」(*1)というのが正しい発音です。カメハメハ一世が遠い南のサモア王国にある島の名を意識して名づけたことは大いにあり得るのです。ハワイの意味は「はるかなる故郷の島」と解釈するのがよいかもしれません。このほかにも、「先祖の家」「地下世界」「彼岸」という説もあります。(*2)


*1「‘(グロッタル)」の次の「イ」は手前の「イ」の音を発音したあと、瞬間的に息を止め、そのあとに軽く発音する音です。はっきり「イ」と発音するわけではありません。
*2 国名の由来については、機会を改めてお話しする予定です。

マレーのマハラジャ、スリ・アブ・バカール
 ポリネシア文化圏に話を戻しましょう。マルケサスやタヒチを含むポリネシア地域には20近くの言語があります。言語学者によれば、ハワイとタヒチの単語の80パーセントは類似していると言います。ポリネシア語は、ハワイ語やタヒチ語のほか、サモア語、トンガ語、マオリ語などとともにアウストロネシア語族のなかのオセアニア語に属しています。この広域言語の源を探ると、彼らの文化が発生したと言われている南アジアの国々にまで遡ることができます。かつてカラカウア王が諸国行脚の旅に出たとき、マレーのマハラジャとの話のなかで、互いによく似た単語をいくつも持っていることに驚いたという記録が残っています。類似語が多いのは古くから太平洋の交易が盛んなため、両国のことばが混ざり合ったのではないかという説もありますが、そのように断定するにはあまりにも共通することばが多かったということです。
ロシア船に同乗してハワイを訪れたシャミッソー
 ところで、西欧人として初めてハワイ語の文法書を書いたのは、フランス生まれのドイツ詩人アダルベルト・シャミッソーです。ハワイ人は文字を持ちませんでしたから、系統だった整理は西欧人との接触を待たなければなりませんでした。シャミッソーは1816年にコツェブー(*3)とともにハワイを訪れ、カメハメハ一世の歓待を受けています。彼はこのときハワイの宗教儀礼に強い関心を抱いて、ハワイ語の研究に着手したのでした。ちなみに「ポリネシア」ということばを作って世に知らせたのはシャルル・ド・ブロス(*4)です。

*3 アラスカのコツェビューは彼の名にちなみます。
*4 「フェティシズム」ということばの考案者としても知られています。

アラスカの町に名を残したオットー・コツェブー
ハワイ語は12のアルファベットで構成されています。英語の26と較べると、半分にも満ちません。では、ハワイ語はまれにみる簡潔な言語なのでしょうか? それは大きな間違いです。ハワイ語は世界の少数言語と同じく、2つの点で大国の言語と同じ奥深さを持っています。ひとつは発音についてです。現代ハワイ語はほとんど区別をしませんが、本来、ハワイ語の発音は、日本語や英語では表記できない微妙な音が存在していた可能性があります。たとえば「ト」に「°」を付けて表記するアイヌ語のように、ハワイ人が独特の発音で他のことばと区別したことばが存在していたということです。もうひとつは、「ことばは環境に依存する」という点です。たとえば日本には雪を表現することばが英語に較べて多いのですが、エスキモーは日本語の何倍も雪を表現することばを持っています。その理由は、生活環境がそれを必要としたからです。ハワイ語も同じように、海に囲まれた暮らしのなかで漁や魚について豊かな表現を生み出してきましたし、ココヤシのように、生活のあらゆる場面で使われてきたものについては、詳細にことばを使い分けていました。

次回はハワイのことば(2)と題し、単語の特徴、発音などについてお話しします。
サンゴ礁のサカナ (1)フムフムヌクヌクアプアア 2004年2月19日
サンゴ礁のサカナ (2)ブダイの仲間たち 2004年3月4日

鳥たちの世界 (1)ハワイミツスイ

2003年1月16日
鳥たちの世界 (2)ネネ(ハワイガン) 2003年2月6日
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