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果実の断面 |
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最初にパパイアの歴史をたどってみましょう。パパイアは熱帯アメリカが原産ですが、野生種が見つかっていないため、場所を特定することはできません。現在広く流通しているパパイアはメキシコ南部からコスタリカにかけて野生するものに端を発しています。ハワイのパパイアは、このメキシコ産がルーツです。
ハワイではかなり以前からパパイアがあったと言われています。一説ではヨーロッパ人の来島以前からあったと言われていますが、実際は19世紀初頭に、スペイン人のドン・マリンがマルケサス諸島から持ちこんだのが最初のようです。その後パパイア農業は発展し、今日ではパイナップルと並ぶ大きな産業となりました。
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大ぶりの葉 |
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パパイアはパパイア科の植物で、学名を"Carica papaya"と言います。"carica"とはイチジクのこと。葉がとてもよく似ていることから誤って命名されたものです。"papaya"は西インド諸島の呼び名が由来と言われていますが、正確なところはわかっていません。和名のチチウリ(乳瓜)は、パパイアのどこに傷をつけても白い乳液が出るところから名づけられたものです。この液体は原液では有毒で、目に入ったり爪の間に入ると激痛が生じます。しかしパパインというタンパク質分解酵素が含まれているので、これを抽出して製品にするところもあります。パパインは肉をやわらかくしたり、消化を助けたりしてくれます。
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実の付きかた |
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パパイアはとても成長が早く、半年から9ヶ月で実をつけます。果実のサイズは品種によって、数百グラムから10kgに近いものまでさまざまです。成長すると7mから9mの高さになりますが、農園では3mほどにそろえています。それより高ければ手入れや収穫に手間がかかり、それより低いと盗難に遭いやすいというのが理由です。それ以上に伸びたらなぎ倒し、新しく種を植えて育てます。パパイア栽培にはいくつか克服すべき課題があります。株には雄、雌、両性の3タイプがあり、雌株と両性株に果実がなります。果実の品質に大きな差はないのですが、雌株は丸みを帯びた形に、両性株は洋ナシ型となります。市場では洋ナシ型が好まれるため、大半の農園では両性のものを育てます。しかし、パパイアは花をつけるまで性別がわからないので、効率の悪い栽培を余儀なくされます。*1
また、パパイアは基本が草ですから風に弱いのも難点です。太く見える茎の部分は中心が空洞で木部が少なく、大人がよじ登ると基部から折れてしまうことがあるほどです。そのため、強風避けに、防風林を用意してやる必要があります。
*1 品種によっては性別が判明しているバイオ苗が利用されることもある。また、開花前の苗の葉からDNAを採取し、性別を判定する技術もある。
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パパイアの花 |
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もうひとつの課題はウイルスです。リングスポットと呼ばれるウィルスがアブラムシを介して発生し、果実に斑点ができます。ハワイでは1950年代に大発生し、遺伝子組み換え技術が導入されるきっかけとなりました。今日、ハワイで売られているパパイアの90%は遺伝子組み換えをされたものです。それで問題が解決するわけではないのが農業の難しいところです。リングスポット病の被害から免れたものの、今度はブラックスポットいう新種のウィルスが発生したのです。また、遺伝子組み換えによる新パパイアは、わずかながらアレルギーを起こしやすくする可能性があるとも言われています。
しかし、最大の問題は、ハワイのパパイアにとって最大の顧客である日本が、遺伝子組み換えのパパイアを購入しないと決めたことでした。なかでも寡占的にパパイアをつくってきたハワイ島は大打撃を蒙り、農園廃業が続出した時期もありました。日本でもそうですが、理想的な農園は雑墾形態だと言われています。ハワイのある農家ではパパイアの間にマンゴーの巨木や柑橘類、ココヤシなどを植え、被害が生じてもそれが全体に行き渡らないようにして、ウィルス被害を乗り切っています。
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パパイアは幹(茎)が細く上部が重いので風に弱い |
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食べ頃のパパイアの見分け方は、皮に青い部分が残っていないことと、お尻の部分が軟らかくなっていることです。半日ほど冷蔵してから食べるといいですが、冷やしすぎたり、冷蔵期間が長くなりすぎると味が落ちますので気をつけてください。レモンや塩など、甘さを少し殺すものをかけて食べると、パパイアのおいしさをさらに引き出すことができます。ハワイでは青いパパイヤを漬け物にして食べることもあります。
前回、パイナップルは果物ではなく、野菜だと書きましたが、パパイアも同じく野菜です。ちなみにバナナも野菜、マンゴーは果物です。では、果物と野菜の垣根はなんでしょうか。それは、その植物の果実が木から生じるのか、あるいは土(茎)から直接生じるかの違いです。パイナップルと同じく、パパイアやバナナの場合、幹のように見える部分は茎で、果実は茎から生じます。草(草本)から採れる果実はトマトやスイカ、メロンなどと同じく野菜、木の幹や枝から生じる果実は果物と呼びます。ことばが矛盾しているようにもみえますが、「果」とは、木に付く果実を意味します。 以上は植物学の原則であって、実際にはトマトを除き、水分が多く甘い果実はほとんど果物と呼んでいることは、みなさんがご存知の通りです。
次回はマンゴーについてお話しします。
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