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地下でふたつの洞窟が合体した部分
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暗闇には光がありません。照明を消せば自分の指さえ確認できない漆黒の世界となります。水が滴り落ちている場所を除くなら、音さえかき消された地下空間は、死者の世界のようにも思えるかもしれません。実際、ハワイ人はかつて、先祖の遺骨を洞窟に埋蔵していました。
しかし注意深く観察すると、地下は思いの外、変化に富んでいることに気づかされます。たとえば、岩石の種類、状態、形状など、地下空間の構造を探る地質学・火山学的な側面があります。熔岩が地上へ噴き出すときはガスが発生し、まだ柔らかい溶岩のなかに気泡が生じます。時間とともに消滅してしまうこともありますが、気泡と気泡が連結して次第に巨大な空間をつくることがよくあります。溶岩がその状態で冷え固まると、そこに地下空間が残されることになります。また、地下を溶岩が流れ去った跡がトンネル状に残される場合もあり、この場合も地下に空間が誕生します。
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寸前で活動が停まり、冷え固まった溶岩
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洞窟は地上の気候や気象の変化に晒されることなく、長い年月を、噴火当時の状態を保ったまま保存されます。溶岩のなかには、地球内部の物質が風化や変成といった作用をほとんど受けずに残されているわけですから、そこにある鉱物の結晶などを調べることで、マグマの成分や、噴き出した熔岩が、年代ごとにどのように変化が起きているかといった火山活動の詳細を調べることもできます。
また、かつてここに住んでいたかもしれないハワイ人たちの遺跡を探る考古学や文化人類学的な側面もあります。彼らは死者の骨を取り出し、これを洞窟内に祀っていましたし、溶岩地帯に住んでいた人たちは淡水を確保しにくいため、洞窟の天井からしたたり落ちる水滴を貯めて飲み水を確保していまいた。また、家としても利用してきたことも判明しています。
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石の囲いは、天井からの滴下水をためた木の器があった跡
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さらには、鳥や昆虫、コウモリなど、洞窟をすみかとしている動物の生息を探る動物学的な側面や、壁面に付着するバクテリアなどから新薬発見の可能性を探る薬学的な側面もあります。結核の治療薬として知られるストレプトマイシンも、洞窟内に生息するバクテリアからつくられたものです。
これらすべての学問分野について、ハワイ大学やビショップ博物館、あるいは国立公園のレンジャーなどが、学際的な協力体制を敷いてさまざまな調査を行っています。洞窟は冷めてもまだ、学者たちにとっては魅力的なホットスポットなのです。
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天井から垂れ下がる溶岩鍾乳を折らないように気をつけながら奥を探査する |
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こうした学問分野の活動を一部で支えているのが洞窟探検を行うグループです。新洞窟を発見したり、専用の装備で深い竪穴や長い洞窟を調査して関係各所に報告書を提出しています。ハワイではとくに洞窟探検が盛んですが、その理由は、ハワイ島に世界最長の火山洞窟と、世界最深の火山洞窟の両方があるからです。
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ロープを使って竪穴を降りる |
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最深の洞窟はマウナロアの北山麓にあり、深さは約250メートルです。ピット(火道)と呼ばれるもので、かつてここからマグマが噴き出していました。竪穴ができる要因は、ピットのほかに、火山ガスの噴出口や割れ目噴火口、あるいは噴火の際に生じた地層のズレなどによっても出現します。
最長の洞窟はキラウエア火山の東山麓にあるカズムラケイブで、総延長は60キロメートルを超えます。この洞窟もそうですが、周辺の、その存在がほとんど知られていない洞窟のなかには、かつてハワイ人が墓場として利用していたものがあり、内部には骨が保存されていることもあります。これまでは関係者以外の立入は認められていませんでしたが、現在ではガイドツアーも行われています。
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