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ナーパウ・トレイル
近藤純夫

チェーン・オブ・クレーターズを歩く

平坦なトレイル。両脇にケルンが積まれている

 キラウエア火山のクレーターはほとんどがカルデラの周辺に集まり、かつては噴き出した熔岩が溜まっていました。しかし、それらは、マーク・トウェインやイザベラ・バードがこの地を訪れた19世紀後半には沈静化しました。現在はキラウエア・カルデラの東に伸びる寄生火山群(チェーン・オブ・クレーターズ)に火山活動の主体は移っています。そのなかでもプウ・オー・オーはいまも活発に活動して溶岩を流しつづけており、ナーパウ・トレイルの途中にあるプウ・フル・フルからは、膨大な噴煙を上げるプウ・オー・オーを望むことができます。今回はこのプウ・フル・フルまでのトレイル往復を紹介します。

溶岩樹型と燃え残った樹木

 スタート地点となる駐車場の周辺は緑に囲まれていますが、その先には広大な熔岩平原が広がっています。滑らかな熔岩はパホエホエ熔岩、ゴツゴツしたものはアア溶岩と呼ばれますが、トレイルはパホエホエ溶岩の上に作られており、舗装されたように平坦な道がプウ・フル・フルまでつづきます。ルート上には一定の間隔で積み上げられた石(ケルン)が現れるので、これを目印にして歩くとよいでしょう。
 右手にアア熔岩の盛り上がりを見ながらしばらく熔岩平原を進みます。運が良ければハワイの固有種であるネネ(ハワイガン)と遭遇できるかもしれません。やがて小さな森に入ると、トレイルの両側にはベアードグラスやオヒアの木が広がります。目的地であるプウ・フル・フルとこの森だけが、溶岩の襲来を免れ、小さなオアシスとして残されました。
 森を出て再び熔岩平原を歩き出すと、ところどころに岩塔が出現します。熔岩樹型と呼ばれる樹木の鋳型です。ここにも先ほど通り抜けたところと同じ森林がありましたが、熔岩が包みこんで焼きつくしました。溶岩は異物に触れるとすぐに固まる性質があるため、木が燃え尽きる前に木の鋳型をつくってしまうのです。岩の表面や内部には幹の跡がくっきりと残っています。

プウ・フル・フルのクレーターを見下ろす

 しばらくゆるやかな登りが続き、やがて前方に緑豊かな小さな山が見えてきます。プウ・フルフルという名の噴石(スコリア)丘です。緑に覆われていますが、山頂からは大きなクレーターを見下ろすことができます。ここから噴石(スコリア)が吹き上げられ、この丘ができたのです。山頂からは、東に活発な噴火活動をつづけるプウ・オー・オーが、北にはマウナ・ロアとマウナ・ケアが見えます。雲がなければマウナ・ケア頂上付近の天文台群もはっきりと確認できます。

噴煙を上げるプウ・オー・オー

 南にはマウナ・ウルが目の前に見渡せます。ここは1974年まで広大な森林が広がっていましたが、マウナ・ウルから噴き出した溶岩が一帯を埋めつくしてしまいました。プウ・フル・フルから眺めるマウナウルはなだらかな山容にみえますが、山頂直下には数十メートルもある巨大な噴出口がいまも口を開け、噴煙を出しています。
 溶岩平原は黒一色の荒涼とした風景に見えますが、吹き上げる火山ガス、誕生の条件で大きく変化する表面の形状や色、割れ目に着生したオヒアやオヘロ、タマシダなど、さまざまな表情があります。帰路はそんな溶岩平原の様子を観察しながら戻るとよいでしょう。

マウナ・ウル 

 ヒロからは11号を南下し、パホアを経て国立公園の大標識を過ぎて間もなくのT字路を左折して国立公園へ。カイルアコナからは同じく11号を南下し、サウスポイントを回りこんで北上します。チェーン・オブ・クレーターズ・ロードを下って6kmほど行くと左手にマウナ・ウル・ロードの標識が現れるので左へ。すぐに駐車場が現れます。国立公園の入口から30分ほどです。
 ルート上にはさまざまな熔岩塊がありますが採らないように。罰則規定もあり、情状酌量されることはありません。また、溶岩は崩れやすいのでトレイルからは出ないこと。プウ・フル・フルから先へ行くには国立公園で許可を取る必要があります。マウナ・ウルの山頂には数十メートルの深さを持つクレーターがありますが、その周囲にはクラックが走っていて崩れやすい状態にあります。途中のアプローチも危険な箇所が多く、入山許可が取れても、経験者の同行が必要です。

次回は 大航海時代の探検家たち(3)と題し、コツェブーとハワイの関わりを紹介します。

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