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大地の下を通って流れる溶岩 |
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「ハワイで温泉?」と思われる人は少なくないでしょう。ハワイ諸島は火山列島で、いまも噴火がつづき、1000度を超える溶岩が流れているところですが、意外にも温泉はあまり多くありません。マウイ島から西の島々はすでに熱の供給源となるマグマ溜まり(ホットスポット)から外れていて熱源がありませんし、火の島として知られるハワイ島も、マグマの上昇が中央から南西部に限られています。島の中央にはマウナ・ロアがあり、山頂クレーターからはいまも火山ガスが立ちのぼっていますが、島の大部分を占める玄武岩は気泡だらけでほとんど水をためることができません。ハワイでは昔から淡水の流れるところがとても貴重で、このことはワイピオ渓谷など豊富な淡水を確保できるところは首長(アリイ)や祭司(カフナ)など、上流階級で占められていたことからもわかります。
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ポホイキの温泉(@maku) |
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それでもプナ地区にはわずかながら温泉が湧いています。この一帯には南西地溝帯(サウスウエスト・リフトゾーン)と東地溝帯(イースト・リフトゾーン)があり、後者はキラウエアのハレマウマウ・クレーターから西北西に延び、東海岸のカポホに至ります。このリフトゾーンの地下には湯脈があり、温泉はその上に点在しています。
ひとつは南の海岸に面したアイザック・ハレ・ビーチ・パークです。ポホイキの集落に突きあたったところから、右手の人家の前をとおり、海岸近くの森のなかにあるこぢんまりとした水たまりのようなところです。ここは満潮になると海水が混ざるので人肌程度の温度しかありませんが、海水浴客やサーファーなどが冷えた体を温めにきます。海水の混ざりにくい干潮時であれば多少水温は上がります。
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アハラヌイ・ビーチの温泉 |
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すぐ近くの東側の海岸にはアハラヌイ・ビーチ・パークがあります。海に面した水底の何カ所かから温泉が湧きだしているため、海と接する部分に防波堤をつくり、一定の水温を保たせています。とはいえ、日本の温泉に較べると決して熱いとは言えず、温かく感じられる程度です。大人の首のあたりまでの深さがあるので家族連れの場合は浮き輪などが必要となりますが、一部に浅い場所もあります。日中はライフガードが常駐しています。
いずれの温泉もとくに宣伝をしているわけではないので観光客の姿はまばらですが、冷えた体を温めながらいつまでも海遊びができるので地元の人たちには人気です。
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キラウエアのトレイル脇から上がる火山ガス(水蒸気) |
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温泉ではありませんが、その昔、ハワイ火山国立公園内のボルケーノ・ハウスにはサウナがありました。19世紀の後半にイギリスの旅行作家であるイザベラ・バードは、当時はまだ草葺きだったボルケーノ・ハウスに宿泊したとき、宿のインド人オーナーの勧めでサウナに入りました。エネルギー源は周辺の地割れから噴き出す火山ガスのうち、水蒸気を主な成分としたものです。小さな小屋が噴き出し場所の上に立てられただけですから、火傷の心配をしなければならないほど粗末なものでしたが、とにもかくにも、ハワイ第1号のサウナでした。残念ながらこのアイデアはあまり評判がよくなかったらしく、ボルケーノ・ハウスが別の場所に移設されたときになくなってしまいました。
ハワイ島ではプナ地区で40年ほど前から地熱発電や地熱エネルギーの商業利用が行われています。できるだけマグマの主脈近くから熱エネルギーを採取するため、「井戸」は地下1600m以上にまで伸びています。しかしその総量は現時点で30メガワット程度と、決して多いとは言えません。ちなみに日本の地熱発電容量は約560メガワットです。
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ほとんど地元の人しか訪れないシークレッド・ポンド |
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最後におもしろい温泉を紹介しましょう。ケカハカイ・ビーチの少し先にある小さなビーチの、そのまた背後にある池です。条件によっては上の2つの温泉よりも温かいのですが、じつは海水が湧きだしているだけです。さえぎるもののない溶岩大地の上にあるため、日中は温泉気分を味わえます。
トップページはアハラヌイ・ビーチ・パーク内の温泉です。
次回は映画『ジュラシック・パーク』の撮影で知られる、カウアイ島のアラートン・ガーデンについてお話しします。 |