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土地の単位と管理者 |
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ハワイ諸島は数十万年から数百万年という長い歳月の中で風雨に洗われ、深いひだを刻んできました。地質年代的に古いカウアイ島はもちろん、もっとも新しいハワイ島においても山々が下界の土地を尾根によって隔てています。それらの土地をハワイ独自の自治区域として分けた最小単位をアフプア・アと言います。
各島はモクプニと呼ばれ、大首長(アリイ・ヌイ)が治めていました。アリイ・ヌイはこのモクプニを、モクと呼ばれる地域に島を分割して、下位の首長たち(アリイ・アイ・モク)に分け与えました。ハワイ諸島は深い峡谷に囲まれた地形が多く、尾根と尾根に囲まれた地域がひとつのモクとなりました。アリイ・アイ・モクはこれをさらに小分けし、アフプア・アという単位に分けましたた。アフプア・アを管理したのはアリイ・アイ・モクが任命したアリイ・アイ・アフプア・アです。
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カウアイ島のアフプア・ア |
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アフプア・アは上の図に示したような土地制度の末端にあります。原則的に両端の境界は尾根、または石壁(アフ)で仕切られ、境界線にはブタ(プア・ア)の置物が置かれました。アフプア・ア内には川が流れていることが原則です。場所によっては川がほとんどなかったり、あるいは非常に多いところもありました。土地が狭くても、豊かな環境があるところはさらに細分化して、イリ・アイナと呼ばれる区画に小分けしました。
細長い三角形の土地には川以外にも不可欠なものがありました。タロイモを栽培するための水田に引く水と、漁に出かける海岸、そして独占的に利用できる海です。細長い土地のなかで、漁業と農業が行われていたのです。このシステムによってアフプア・アの住人たちはリサイクル型の暮らしを行いました。
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ワイピオ渓谷のタロイモ水田 |
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一見すると分かりやすく平等な制度のように見えますが、自然環境には大きな差がありますから、たとえばハワイ島のワイピオ渓谷やワイマヌ渓谷のような豊かな土地はアリイ・ヌイやカフナ・ヌイ(大祭司)などが独占しました。反対に、淡水の確保が厳しい土地もありました。そのようなアフプア・アでは生きていくのがやっとという状態だったようで、18世紀末にハワイ島を訪れたキャプテン・クックは、航海日誌に次のように記しています。「(前略)取り引きするものを何も持たずにやって来るカヌーもたくさんあった。(ハワイ)島のこの地区はひどく貧しいようだ…。」
王朝以前のハワイ諸島には貨幣経済がなく、土地を所有するという概念もありませんでした。すべては大首長のものだったのです。彼が死ぬと、土地の所有者とそれを借り受ける者の関係は失効し、新たに即位した大首長がすべての土地を再度分配するというしきたりになっていました。なぜこのようなシステムになったのかと言うと、ハワイの人々は「財産」に相当するものを持っていなかったからです。ハワイ諸島には鉄や銅などの金属はありませんし、米やトウモロコシのように長期保存できる食糧もありませんでした。
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リマフリ渓谷とタロイモ水田 |
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ハワイ人の主食はタロイモ(カロ)でしたが、加工して非常食とするのでないかぎり、日持ちしませんでした。彼らが権威づけに用いた「もの」は、鳥の羽で作られたマントやヘルメットくらいだったのです。長期に渡って占有する「もの」がなかったため、首長や祭司たちは、一般庶民と同じような家に住み、同じような食事を摂っていたのです。長期に保存できる「商品」がなければ流通システムは働きません。狭い地域で自己完結的に暮らしていかないと、立ちゆかないという現実があったのです。必要に迫られて誕生したアフプア・アですが、それが結果的に環境との共存を実現させました。
アフプア・アの源流部はアリイ・アイ・アフプア・ア以外はだれも入ることができませんでした。上流部は飲料水用に確保し、中流部にはタロイモ水田(ロ・イ)が作られました。下流域の、海に面した土地に集落がつくられ、集落のなかを通る川は海岸の手前に盛られた土の下を通って排水されます。水田の水は地下に吸い込まれてから海に流されるのです。各アフプア・アが所有する海岸とその先の漁場は狭い範囲なので、海を汚して珊瑚が死滅したり、魚が姿を消さないよう、細心の注意を払ったのです。
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カメハメハ・スクールで使用しているアフプア・アのテキスト |
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アフプア・アは今日の暮らしに多くの示唆を与えてくれます。アフプア・アは完全なる自然循環型経済だったからです。ここでは農作物や魚だけでなく、家や衣服、カヌーにいたるまで、すべての生活必需品が作られました。出されたゴミは土に還し、その土地から新たな収穫物を得るのです。ハワイは徹底したリサイクル社会だったと言えるでしょう。
トップページの画像はカウアイ島のリマフリ・ガーデンにあるタロ水田(ロ・イ)です。ここはかつてアフプア・アのひとつでした。
次回はフィッシュ・ポンド(養魚池)についてお話しします。 |