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花物語(21) タロイモ(カロ)
近藤純夫
カウアイ島ハナレイのカロ水田(ロ・イ)

 日本人の食文化で米を欠かすことができないように、ハワイではカロ(タロイモ)がもっとも重要な食糧です。カロのユニークな点は、主食であるとともに、宗教的な要素を兼ね備えていることです。今回はポリネシア人が祖国から持ちこんだカロとハワイ文化についてお話しします。

 カロ(Kalo)は学名をColocasia esculentaと言い、サトイモ科(Araceae)の仲間です。インドからインドシナ地域が原産地で、湿潤な熱帯を中心に110属1500種が分布します。多年草で、丈は1〜1.5m、穂状の花序は 4〜6cmです。花穂を包みこむような苞と、ハートに似た葉を持つ種が多いのが特徴で、ミズバショウのように水生のもののほか、他の植物に着生する種があります。一般には、サトイモやタロイモ、コンニャクのように食用とされるものと、アンスリウムのように観賞用に栽培されるものがよく知られています。

ポイをつくる

 カロは、サモアではタロ(talo)、タヒチでもタロ(taro)と呼ばれており、ポリネシアに広く分布します。カロを持ちこんだのは初期に入植したマルケサスの人々ですが、マルケサスの人々の主食はパンノキで、カロではありません。これに対し、数百年後に大規模な移住を行ったタヒチの人々の主食はタロ(カロ)でした。ハワイの食文化はおそらくタヒチの人々の到来とともに変化していったようです。

 キャプテン・クックがハワイを訪れた18世紀末、ハワイには300を越えるカロの品種があったと言われます。もちろん、ポリネシア人が持ちこんだカロの種類がこれだけあったわけではなく、ハワイの歴史のなかで品種改良が続けられた結果です。この背景にはアフプア・アという文化があります。アフプア・アの詳細については過去の記事(*)を読んでいただくことにして、簡単に言えば、人々が暮らす最小単位の自治体です。彼らは自分たちのアフプア・アと呼ばれた土地を基本に、自立的な暮らしをしてきました。その結果、最初は同じだっただろうカロも、土壌や気象条件などの違いによって、少しずつ性格の異なるものになっていったのだと考えられます。

* 「アフプア・ア (Ahupuaʻa) 」を参照

 カロは清涼な水を必要とするため、土地を流れる川の上流部に水田(ロ・イ)を作りました。使用済みの用水はそのまま海へ流されることはなく、排水路の手前に砂山を作り、そのなかを通すことで濾過させました。アフプア・アは山から海に向かって広がる細長い三角形のような土地なので自分たちに与えられた海岸の幅も狭く、海水が汚染して漁に影響が出るのを防いだのです。

収穫されたカロ

 ハワイの人々の重要な主食であったカロには陸耕と水耕があります。陸に植えられたものは味が劣るわけではなく、渇水などで飢饉が起きたときの緊急用として栽培されました。あまり知られていませんが、カロにはポイのように、根茎を育てるものと、ラウラウのように葉を育てるものがあります。

 ポイなどで知られるカロは、根の部分に育つイモ(根茎)を切りとり、残りは再び畑に突き刺して、次の成長を待ちます。これは10世代以上行われます。本体の成長力が衰えた場合は、主根の周囲につく小さな根茎を新たに植えます。この、子どものような根茎のことをハワイ語でオハナと言い、転じて家族ということばになりました。

水田の水はつねに新鮮に保たれる
収穫前のカロ

 カロはポイとして食べるのが一般的です。これはウムと呼ばれる地中オーブンのようなもので蒸したあと、石(pōhaku kuʻi poi)で叩き潰して糊状にしたものです。ちなみに、固めのポイを1フィンガー、柔らかめのものは3フィンガー、その中間を2フィンガーと呼びます。家族だけでなく、そこにいる人たちは皆同じ器から指ですくって食べました。
  ポイは完全食と言われ、ハワイでは赤ん坊の離乳食代わりにも用いられます。葉はビタミンの宝庫で、ラウラウなどの伝統料理に用いられました。いまではほとんど見られませんが、花穂も食用となります。

 カロにはこの他にも、発酵させたり、焼いたり(アオ)、茹でて食べられます。花は滅多につけませんが、つくときは仏炎苞と呼ばれるミズバショウの苞のようなものに包まれたものが根元にできます。カロの地下茎(根茎)はオハ、葉はル・アウ、葉と塊根、あるいは一方をカットした残りの部分はフリと呼ばれます。フリには「回す」という意味があり、次から次へと収穫できることを表現したものと言われています。ディナーパーティーとして知られるル・アウは、カロの葉に由来します。カロには首長しか食べることのできない品種があり、そのような品種は石垣を築いて水田(ロ・イ)を囲って管理されました。また、男女が同じテーブルでカロを食べてはいけないというカプ(規則)もありました。

 ハワイの人々にとってカロは精神的にも重要な意味を持っていました。遠い昔、空の神ワケアと、陸の神パパの間に産まれた子は死産でした。夫婦が哀しみのうちに亡骸を土中に埋めると、やがてそこから芽が出てカロが育ちました。その後、彼らには女の子が授かり、次に人の先祖となるハロアという男児が授かりました。そのため、人々は、カロと人間は兄弟の関係にあると信じているのです。

表紙の画像は熟す前の収穫を待つカウアイ島ハナレイのカロです。
次回は間もなく来日するホクレアについてお話しする予定です。

 


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アロハ・ブックシェルフで詳しくご紹介しています

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