|
滝壺に置かれたティのレイ
(オアフ島) |
|
ティ(キー)はポリネシア人がタヒチやマルケサス諸島から持ちこんだもので、ハワイ諸島の隅々に植えられました。その多くがいまでは野生化しています。なかでもマウイ島のワイヘエ渓谷やカウアイ島のカララウ渓谷には見事な群落があります。ティは当初、タコノキの森に植えられましたが、その後、厄除けや幸運を呼ぶものとしてヘイアウの敷地などに植えられるようになりました。今日でも家を建てると、建物の四隅に植えて厄除けとします。英語のGood-luck plantという名前はこの慣わしが由来となっています。
|
カララウ・トレイルのティの群落(カウアイ島) |
|
ティは英名をTi、あるいは Hawaiian Good-luck Plantと言います。ハワイ名はキー(kī )ですが、これはティのハワイなまりです。和名はセンネンボク、あるいは特徴的な赤色の茎に由来してコウチク(紅竹)とも言います。原産地はヒマラヤから東南アジアを経てオーストラリア北部にかけての地域です。
ティは多年草で成長すると2mから4mほどの高さになります。花冠は0.8cmから1.5cmほど。ピンクや薄紫色の苞のなかに、白い花弁と黄色の葯をつけた、透明感のある花を密生させます。根は膨らんでいて食べることもできます。葉は長さが30cmから70cm、幅5cmから12cmで、しなやかで光沢があります。果実は球形で、熟すと濃い赤色になります。直径1.2cmほどです。
神話と伝承
ティにまつわる伝説は数多くありますが、なかでもカメハメハ大王にまつわる話がよく知られています。18世紀末、ハワイ島のフアラライ山が噴火してカイルア方面に流れはじめたとき、カフナ(神官)は祈りを唱えて溶岩流の勢いを止めようとしました。しかし、溶岩の勢いは衰えず、集落は風前の灯火でした。このとき、カメハメハ大王は自分の髪を切り取ってティの葉にくるむと、祈りを唱えたカフナとともに溶岩流のなかに投げ入れたのです。すると、たちまち溶岩は勢いをなくし、冷え固まったと言います。また、カウアイ島のある首長は、世継ぎを決めるときにティの葉で小さな船を作り、流れる先を見て判断したとも言います。
|
成長すると人の背丈を超える(マウイ島) |
|
別の伝承によれば、かつてハワイ島のワイピオ湾にはサメが多く生息し、ときに人を襲いましたた。そのため、この海で泳ごうとする人は、最初にティの茎を海に投げこみました。もし茎が沈んだらそこにはサメがいるので危険だが、そのまま流れていけば安全だと判断したのです。
ティは昔から特別なマナ(霊的な力)があるとされ、儀式のときには、アリ・イ(首長)やカフナだけが、これを首の回りに巻きました。また、アフプア・アと呼ばれる領地で暮らしていた人々は、領地と領地の間にティを植えて境としました。学名であるCordyline terminalisのterminalis(末端)という言葉は、この風習が由来となっています。また、道の難所にはときおり石(pōhaku)をティの葉でくるんだものが置かれていますが、これは安全祈願のようなもので、今日でもよく見られます。
フラ
フラに関わる部分と言えばスカート(pāʻū )ですが、ポリネシア人によってハワイへ持ちこまれたティは、マルケサスやタヒチでもティと呼ばれ、トンガではシーと呼ばれます。ハワイでは緑色の葉を50枚ほど用い、なかが透けないデザインになっていますが、トンガのダンスで用いられるスカート(シーシー)は赤や黄色の葉20枚ほどでできたまばらなものです。
|
ティを編んでつくったレイ(日本) |
|
レイ
ティでつくられたレイには、建物の周囲に植えられる植栽と同じように、厄除けや、心を浄らかにするという意味があります。また、マイレのように、神へ捧げる儀式に用いられることもあります。ティは単独でも用いられますが、他の花とからめて用いられることもよくあります。
食
食材としてのティは、肉や魚などを包む素材として使われました。地面に穴を掘り、そこに食材を入れてから、土を少し戻し、火を点けて蒸す方式をイムと呼びます。このとき、食材をサンドイッチするように包む素材としてティの葉が使われました。また、肉や魚を包んで蒸し、葉ごと食べるラウラウなどの料理は今日でもおなじみです。コロと呼ばれる完熟した地下茎はサツマイモよりも巨大で甘く、味も良いものです。巨大な根は繊維質で果糖を多く含み、成長すると100kg以上にもなります。これを蒸留すると焼酎のような酒になりました。
薬
葉は熱冷ましの効果があるため発熱したとき額に貼りました。また、頭痛も改善されるとされます。若く柔らかな葉は包帯代わりとなり、熱した石をティの葉で幾重にも包んだものは、背中の痛みを和らげる効果がありました。
|
リリノエと呼ばれるティの園芸種のひとつ |
|
|
小さいが色鮮やかなティの花 |
|
道具
ティはあらゆる部位が利用されました。葉は屋根を葺いたり、サンダルにしたり、雨具などに用いられました。葉の主脈部分は紐代わりとなり、葉(ラウ)を撚った(フキ)ものは漁網(フキラウ)になりました。
表紙は滝壺に捧げられたティのレイです。
次回はモロカイ島に、ダミアン神父の足跡をたどります。
|