ハワイにはさまざまな植物が咲き乱れ、さながら自然がつくり出した美しい庭園のようですが、そのほとんどは近年になってからハワイに持ちこまれたものです。ハワイアンハイビスカスをはじめ、プルメリアやブーゲンビレア、ジャカランダ、シャワーツリーなど、よく知られている花のほとんどは、西欧人が来島するまでハワイには存在しなかった植物なのです。
そのなかには、ハワイの自然にとって有害なものもあります。なかでも、カユプテ、ランタナ、コア・ハオレ、ミコニア、ストロベリー・グァバ、アフリカン・チューリップ・ツリー、イボタノキは要注意です。カユプテはフトモモの仲間で、ユーカリの一種と同じように樹皮が薄く剥がれるため、ペーパー・バーク・ツリーとも呼ばれており、ハワイの森ではよく見かけます。ランタナはいまでは日本でも野生化しはじめているので、知っている人は多いでしょう。ハワイでは森林地帯を中心に広がっています。コア・ハオレ(ハオレ・コア)は乾燥地帯の緑化に利用されます。ダイヤモンド・ヘッドでもおなじみですね。ノボタン科のミコニアは巨大な葉が特徴です。山間部を中心によく目にします。ストロベリー・グァバは(コモン)グァバの近縁で、赤く美味しい実をつけます。アフリカン・チューリップ・ツリーはハワイ島ヒロの街路樹として知られていますが、いまでは諸島のどこでも見かけます。イボタノキはマウイ島など、原野で多く見るようになりました。実はこれらの植物はいずれも世界でもっとも注意を要する植物ワースト100に指定されています。
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アフリカン・チューリップ・ツリー |
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バナナ・ポカ |
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ウチワサボテン |
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では有害植物とは何でしょう? イメージ的には、毒があって人間が食べたり触れたりすると問題が生じるもの。不快な臭いを出す、巨大化する、腐りやすい、病気に罹りやすい、生長が速い...などでしょうか? 実はこれらはすべて有害植物の絶対条件ではありません。正確には生態系、あるいは農林水産業に被害を与える恐れのあるものを指します。生態系の問題としては、他の植物と競合する、他の植物を駆逐する、環境を攪乱する、植物の遺伝的な攪乱を起こす可能性などがあります。ハワイでは上記に挙げたものの他にも、数多くの有害植物があります。それらはいずれも繁殖力が強く、他の植物、とりわけハワイ固有の植物を駆逐してしまいます。なかでもクリスマスベリー、バンブー、ホワイトジンジャー、イエロージンジャー、カヒリジンジャー、ウチワサボテン、バナナポカ、パンパス・グラス、スズメノコビエ、ビカクシダ、オートグラフ・ツリー、ラッツ・テイル、ビロウドモウズイカ、センダン、アサヒカズラ、ウッド・ローズ、レッド・マングローブ、コモン・グァバ、ナンヨウリュウビンタイ、ハリエニシダなどは要注意で、Department of Land & Natural Resources(土地・自然資源局)は、ハワイ州におけるとくに有害な植物として105種類をリストアップしています。
105種類がリストアップされているからと言って、それだけが環境に有害だと言うわけではありません。少し厳しい見方をするなら、ハワイに固有の植物以外はすべて有害植物と言ってもよいでしょう。本来、ハワイを形成していた動植物の体系は、人間の侵入とそれに伴う動植物の侵入によって破壊され続けているからです。ハワイはとくに動植物の固有率が高いため、受けるダメージも大きいのです。ただ、ハワイに住みついた先住のハワイ人が持ちこんだ20数種の植物については伝統植物として別に考えるという学者も多くいます。事実、植物園などでは、外来植物(F)と伝統植物(P)を分けてプレートに表記しています。同様に、彼らが持ちこんだ豚、犬、鶏も例外と考えるハワイ人は少なくありませんが、豚は、その後に持ちこまれた山羊や鹿、野生化した馬や牛などとともに自然体系を破壊するという事実があり、環境保護団体と意見の対立を見ることが少なくありません。今日、先の土地・自然資源局をはじめ、オーデュボン協会やシエラクラブなどの環境保護団体、ネイチャーコンサーバンシーのような第三セクター、ハワイ大学などの教育機関、さらにはボランティアで活動する個人や、地方自治体などが、それぞれの立場でこれらの有害植物の駆除と日々戦っています。
拡散地域
カウアイ島のノウノウ山はここ10年ほどで山体の大半がストロベリー・グァバに覆われてしまいました。同じくカウアイ島のワイメア渓谷沿いではここ数年、爆発的な勢いでランタナが分布域を広げています。オアフ島のマノア滝トレイルではナンヨウリュウビンタイが広がり、プウ・オヒア・トレイルでは当初はイエロージンジャーが、現在はバンブーが分布域を拡大中です。ハワイ島ではサドル・ロードの峠周辺でビロウドモウズイカが徐々に分布域を広げています。また、その何十倍もの勢いでハリエニシダがマウナ・ケアのハカラウ周辺に広がっています。カホオラヴェ島はもともと乾燥した土地だったこともあり、わずかな植物は爆撃地として使用された期間にほとんどが姿を消してしまいました。その間、乾燥地に強いキアヴェが植えられましたが、現在は、ハワイ固有の植物を自生させるべく、キアヴェの撤去と土壌の改良が行われています。モロカイ島やラナイ島はかつてパイナップル産業が栄えた時代に肥沃な土地はすべて畑と化しました。
有害植物は目立つものだけが問題なのではなく、たとえわずかな繁殖であっても、絶滅の危機に瀕している植物を脅かすのであれば、それも問題です。また、ある島の固有種が絶滅すると、たとえ他の島にまだ残っていても、その植物に依存している生きもの、たとえばハワイミツスイなどは、運命をともにするしかなくなります。環境はあらゆる生態系や地質、地形に密接に結びついているので、有害植物の駆除は想像を絶する困難さを伴います。
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イエロージンジャー |
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コモン・グァバ |
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ラッツ・テイル |
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トップページの写真はランタナです。ここ数年、カウアイ島のワイメア渓谷沿いで爆発的に拡散しています。次回はレイ(1)と題し、ハワイのレイの歴史についてお話しする予定です。
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