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ハレマウマウ
近藤純夫
噴煙の基部に溶岩を確認できる
巨大な噴煙を上げるハレマウマウ

キラウエアとハレマウマウ

 ハワイ島南東部のマウナ・ロア山麓にキラウエアという火山があります。この火山は記録に残るだけでも61回の噴火を数えます。(*1) キラウエアの標高は1248m。あまり知られていませんが、火山観測所の裏手に最高地点があります。キラウエア・カルデラの直径(外輪)は6km、内輪は長径3km、短径5km、深さは165mです。今日のような形状に落ち着いたのは500年から210年ほど前と推定されます。この火山で最も古い岩石は2300万年前とされますが、最初の噴火はそれよりさらに古く、5万年から10万年ほど前に起きました。海底に顔を出したのは30万年前から60万年前のことです。

 キラウエア・カルデラ内にはハレマウマウと呼ばれるクレーターがあり、今年3月、およそ40年ぶりに大噴火をはじめました。今回の噴火では巨大な噴煙を上げていますが、わずかながら溶岩も流出ていて、早朝に噴煙の基部を観察すると赤い溶岩が噴出している様子を確認できます。

 キラウエア一帯では1983年に起きたイースト・リフトゾーンと呼ばれる割れ目から帯状の噴火が起きました。このとき以降、キラウエア火山は絶え間なく溶岩と噴煙を出し続け、世界有数の活火山として注目されるようになりました。

 ハレマウマウは1952年以降、34回の噴火(*2)が観測されていますが、今回の噴火では3月からの半年間に合計6回の爆発的な噴火が起き、直径60mを超える噴気口が出現したほか、噴煙の直下には直径50mほどの溶岩湖が出現しました。

*1 ハレマウマウでの噴火活動は含みません。
*2 溶岩を流した活動としては1967年に251日間、1971年に5日間、74年、75年、82年にそれぞれ数時間という記録があります。
  
リフト(地割れ)から出る帯状の噴煙。手前の丘はカーネ・ヌイ・オ・ハモ。奥で噴煙を挙げているのはプウ・オー・オー
火山ガスに覆われた道路
        
 この巨大な噴煙に気をとられて他の噴火活動を忘れがちですが、ハレマウマウから20kmほど東方に位置するプウ・オー・オー火山周辺までの全域は、同じホットスポット(マグマ溜まり)から上昇するマグマの影響を受け、火山活動をつづけています。プウ・オー・オーでは1983年から今日に至るまで活発に溶岩と噴煙を出しつづけており、その溶岩は山腹をおよそ11km下り、海に注いで巨大な噴煙を上げています。

 一般にキラウエア火山の噴火活動と言うときは、このキラウエア・カルデラをはじめ、周囲に広がる噴火口列すべてを意味します。9月現在、キラウエア火山はカルデラ内のハレマウマウ・クレーターから南島のプウ・オー・オーまで、断続的ではありますが、帯状に噴煙を上げているのを観察できます。

 キラウエア火山はマウナ・ロアの山麓に位置するため、当初はマウナ・ロアの寄生火山と見られていました。しかしその後の研究で、マグマの供給経路がまったく異なる独立した火山であることが判明したのです。

キラウエア・イキ・クレーターとハレマウマウの噴煙
ジャガー・ミュージアムの前で解説をするパーク・レンジャー

名前の由来

 先住のハワイ人はキラウエア・カルデラに対してキ(ー)ラウエアという名前を付けました。この言葉にはハワイ語で「噴出する」「拡張する」という意味があり、当時、彼らが止めどなく流れる溶岩を目にして、その圧倒的なパワーにこのような名前を付けたことが想像できます。

 ハレマウマウには火の女神ペレの霊が住みついていると言われます。ペレは兄弟姉妹とともにタヒチからハワイへやってきたという話があります。最初にニイハウ島に上陸したペレは、住むのによい場所を探しますが見つからず、その後、カウアイ、オアフ、マウイと、島々を渡り歩きました。そして最後にハワイ島のキラウエアに終の住みかを見つけました。この神話の背景には、20世紀初頭までカルデラ内のハレマウマウ・クレーターが溶岩に満ちた湖であったことがあるでしょう。(*3)

 1823年、画家のウィリアム・エリスは記録に残る最初のキラウエア・カルデラの噴火活動の様子を絵に残しています。このときカルデラ全体には溶岩が溜まり、絶えずその姿を変えていました。(*4)

 ハレマウマウは、ハレと、マウマウという言葉に分けることができます。ハレは「家」や「住みか」という意味、マウマウはアマウマウの短縮形で、アマウというシダを指します。(*5) ハレマウマウは火の女神ペレの住みかとして知られていますが、彼女の夫であるカマプアアはアマウの森に住んでいて、このシダを自由に操りました。彼はアマウを使い、ハレマウマウを覆いつくすような家を作りました。そのなかに妻のペレを住まわせ、噴火を起こさせないようにしたのです。しかし、いまも間断なくつづく噴火活動をみると、どうやらこの試みは失敗したと言えそうです。

溶岩大地を這い降りる火山ガス
プウ・オー・オーから流れ落ちた溶岩は海に注いで噴煙を上げる
 
*3 ペレというハワイ語には「火山」「溶岩」という意味もあります。
*4 19世紀半ばにハワイ島を訪れた作家のマーク・トゥエインやイザベラ・バードなども詳細な記録を文章とスケッチとで残しています。
*5 正しくはアマ・ウの実生(みしょう)を指します。ハワイ語では植物の実生など、成長前の動植物に対して、単語を繰り返して表現することがあります。

火山ガスに注意

 活動はいまも衰えることなく、巨大な噴煙を出しています。一見、白く見える火山ガスの大半は水蒸気ですが、硫黄成分(二酸化硫黄)が含まれており、ガスを浴びると猛烈に咳きこみます。現地を訪れた際は、決して火山ガスが流れ出している場所へは行かないように気をつけましょう。

トップページの画像は間近で見たハレマウマウの噴煙です。次回はハレアカラとマウイの山々についてお話しする予定です
 

【ハワイの山々】
 ダイヤモンドヘッドに登ろう (1) 2002年8月1日
 ダイヤモンドヘッドに登ろう (2) 2002年8月15日
 火山と溶岩 (1) 噴火に伴う溶岩 2002年11月7日
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 マウナケアと天文台 (1) 2003年2月20日
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 キラウエア (1) 2005年4月7日
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