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ワイルク川をさかのぼる
近藤純夫
Pacific Tsunami Museum
マウイのカヌー岩

 ハワイ島のヒロは日系人にはとくに縁のある古く落ち着きのある町です。開発の歴史から取り残されたように見える町は古さを感じさせますが、変わらぬたたずまいを求めて訪れる人も多くいます。この町は2度の津波で多くの人命が失われるという哀しい過去があり、ダウンタウンにはそのときの記憶を風化させないようにとツナミ博物館が作られました。

 ヒロの水害はツナミだけではありません。市内を流れるワイルク川もまた度々氾濫して町に被害を与えました。ちなみにワイルクとは、ハワイ語で「氾濫を起こす川」という意味があります。この川には島の有名観光地ともなっているレインボー・フォールズを初めとする多くの滝があります。河口から源流近くまでさかのぼりながらこの川にかかる滝を見ていくことにしましょう。

 河口付近の橋から川を見下ろすと、マウイのカヌー(*1)と呼ばれる巨岩が見えます。マウイはこの岩にカヌーをもやいで母である女神ヒナに悪さをするトカゲの怪物を退治しに出かけたとか、カヌーが巨岩になったという伝説があります。そう思って岩を見るとカヌーの形に見えなくもありません。ふだんはカヤッカーたちがここでひと休みしている光景が見られます。

*1 Wa‘a o Maui または Wa‘a Kahui(マウイ島の大首長の名前)と呼ばれます。

レインボー・フォールズ

 川のすぐ上流には水力発電所があり、さらに進むとレインボー・フォールズ(*2)が現れます。雨上がりには名前通りに美しい虹がかかり、いつも多くの観光客で賑わいます。この滝には駐車場奥と駐車場の左手上方にふたつの展望台があります。観光客の多くは駐車場奥からの景観だけを見て帰りますが、上のポイントから眺める滝の落ち口も迫力があります。周辺にはマンゴーの木がたくさんあり、タイミングがよければ落ちているマンゴーを拾うこともできるでしょう。マンゴーの林の先にはバニヤンの巨樹があります。林のように見えますが、一本の木から伸びた気根が幹のように林立しているだけなのです。

*2 ハワイ語でワイアーヌエヌエ(Wai ānuenue)と呼ばれ、「虹の架かる川」という意味です。

ボイリング・ポッド
 ワイルク川の流れの激しさは神話でも語り継がれてきました。レインボー・フォールズには月の女神ヒナの物語があります。ヒナは滝の奥にある祠(ほこら)に住み、カパ(タパ)と呼ばれる樹皮製の布地を作って過ごしましたが、モ・オ・クナ(*3)という川の怪物のいたずらに悩まされていました。この怪物は上流から石や大木を流してヒナを驚かすのです。ある嵐の日、モ・オ・クナは巨大な石を川に落としました。石はヒナの住む祠のすぐ下に転げ落ちて川を堰き止めたため、祠のなかはみるみる水位が上がりました。母ヒナの危険を察知した息子の半神マウイはマウイ島のハレアカラ山からカヌーに乗り、わずか2漕ぎで駆けつけてこの石を取り除きました。そのあと、逃げ出したモ・オ・クナの住みかに溶岩を流し込んで退治したといいます。レインボー・フォールズから車道へ戻り5分ほど登った上流にはボイリング・ポットという観光名所があります。小石が河床を丸く削り取ったせいで川の水は白く泡立っているのですが、それはかつてマウイが溶岩を流し込んだために生じたものだと言われています。

*3 mo‘oはトカゲ、kunaはウナギを意味します。

 さらに上流へと進むと、ペエペエ・フォールズが現れます。「pe‘epe‘e」には、ハワイ語で「隠された」という意味があります。現在は川にかかる橋から一望できますが、かつては深い森の奥にあったので、このような名前が付けられたのでしょう。そこからさらに上流へ登りつめるとワイアレ・フォールズの瀑音が聞こえてきます。広い落ち口を持つこの滝は豪快に水を落としますが、すぐ下の流れはそれとは正反対に静かです。「wai‘ale」とは、ハワイ語で「さざ波の立つ水」、転じて「静かな流れ」を意味しますが、そのような光景から付けられた名前なのかもしれませんね。ワイアレ・フォールズの左岸(上流から下流を見て左側の意味)には名前のない2条の滝がかかり、道は険しくなります。川はここからさらに上流の、マウナ・ケア山腹へと登りつめ、ハカラウの森を抜け、山頂近くに達します。

ワイアレ・フォールズ
ペエペエ・フォールズ

 

 

注意
滝を巡る散策は川岸近くにつけられた踏み跡を利用します。そのような道を歩くのに慣れていない人や、家族連れには向いていません。

トップページはワイアレ・フォールズです。次回はハワイの有害植物(1)をご紹介する予定です。
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