ナウパカは16属430種から成るクサトベラ科の常緑植物で、ハワイを含む熱帯と亜熱帯に広く分布します。ハワイでは1年を通じて花を咲かせるので、花と実を同時につけているのを見ることもできます。
海岸近くに咲くナウパカ・カハカイ(Scaevolataccada、他)は、一般にビーチ・ナウパカと呼ばれます。樹高1〜3mの低木で、高さの2倍程度に枝を広げます。塩害に強く、密生して分布するので、防砂用として植えられることもあります。花の大きさは1.5〜2.5cmで、直系1cmほどの球形の白い果実をつけますが、昔は熟した果実の果汁を充血用の目薬として用いました。
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ビーチ・ナウパカの花 |
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ビーチ・ナウパカの白い果実 |
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マウンテン・ナウパカの花と黒い果実 |
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山に咲くナウパカ・クアヒヴィ(S.chamissoniana、他)は、マウンテン・ナウパカと呼ばれ、現在、7種が確認されています。ナウパカ・クアヒヴィはビーチ・ナウパカが山間部に移って独自の進化を遂げたものです。ナウパカ・カハカイは広く太平洋の暑い地域に分布しますが、絶海の孤島(諸島)であるハワイでは環境に即した独自の変化を遂げ、ついには先祖とは異なる特徴を獲得して、ナウパカ・クアヒヴィという別種に変身したのです。生物の世界ではこれを種分化と言います。ナウパカ・クアヒヴィは樹高1.5〜4mの低木で、花の大きさは1.2〜2.0cm。ナウパカ・カハカイよりも細身で、鋸歯状の花弁をつけます。花には香りがあり、黒い果実をつけます。ハワイでは昔、実を腫れ物や打ち身の治療に用いました。
このほかにドワーフ・ナウパカ(S.coriacea)と呼ばれるとても背丈の低いナウパカ(ハワイ名はありません)があります。数カ所の海岸に生育しているだけでとても個体数が少なく、現在は絶滅危惧種に指定されています。花のサイズは1.5〜1.8cmで、黄みを帯びた白い花弁が特徴です。
いずれのナウパカも、白一色に見える花弁は、よく観察すると赤紫色の葉脈に縁取られているのがわかります。半円形の花の反対側からマイクロフォンのような花柱が伸び、虫がとまると背中がこの花柱に触れる構造になっています。ナウパカの他にも、ロベリアなど、多くの花がこのような構造を持っていて、厳しい環境で受粉を確実に行う工夫をこらしています。
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ドワーフ・ナウパカ |
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カウアイ島コケエ州立公園のマウンテン・ナウパカ |
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モオレロ(伝承)
ナウパカはハワイ人の生活に深く関わっていたせいか、多くの伝承が今日に伝えられています。そのなかの代表的なものをいくつか紹介しましょう。
その1(‘Ekahi)
ある若い恋人たちがけんかをし、女は涙を流しました。彼女の涙がナウパカに落ちると、花は半分に割れてしまいました。彼女は男に向かって、「完全な円形の花を持ってこないかぎり2度とあなたを愛することはない」と告げました。男は島々を歩き回って花を探しましたが、その努力の甲斐もなく、彼は哀しみのうちに死んでしまいました。
その2(Lua)
昔、愛し合っていた若い男と女がいました。しかし双方の親に結婚を反対されたため、ふたりは命を絶ってしまいました。そして女は海のナウパカに、男は山のナウパカに姿を変えたのです。ふたつのナウパカの花の、半円の部分を合わせると雨が降ると言われます。それは、再会を喜んだふたりが涙を流すからです。
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マウイ島カナハ海岸のビーチ・ナウパカ |
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その3(kolu)
カウアイ島のハーラウ(フラの学校)で学んでいたナナウとカパカは恋人でした。しかし、ウニキ(修了のための儀式)の前夜に、男女関係を持ってはならないというカプ(規則)を破ってしまいます。ふたりは黒い上着に身を包み、リマフリ川を越え、ワイアロハの泉を抜け、マニニホロ洞窟を越えて逃げました。ハーラウのクム(教師)はふたりを追いかけ、ナウエまでやって来ました。追いつかれそうになったふたりはルマハイ海岸で分かれ、ナナウは崖の上へ逃げ、カパカはホ・オヒラにある海蝕洞窟に隠れました。
クムが崖の方へ向かい、ナナウを捕まえそうになったので、カパカは洞窟から現れ、ナナウが逃げおおせるようにと行く手を遮りました。怒ったクムはカパカを殺し、掟に従わなかったもうひとりも処罰しようとさらに追跡します。
しかし、カパカの悲鳴を聞いたナナウは恋人のところへ戻りました。彼はプ・ウオマヌのところでクムの前に現れ、その場で殺されてしまいました。
その日、リマフリの漁師はカパカが殺された場所で見たことのない植物を見つけます。それは瑞々しい葉と、涙が固まったような小さな白い果実と、半円形の花をつけていました。クムがプ・ウオマヌに戻ると、ナナウが死んだ場所からもよく似た不思議な植物があるのを発見したということでした。
トップページはビーチナウパカです。次回は花物語(26)と題し、ピカケについてお話しします。 |