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花物語(26)ピカケ
近藤純夫

花は一度に咲かず、順を追うように咲く

 ピカケ(Pikake)はマツリカという花のハワイ語名です。この名前は英語のピーコック(クジャク)をハワイ語読みしたものなのですが、なぜ、鳥の名前が花の名前になったのでしょうか。その前に、ピカケとはどのような花かを見ておきましょう。葉はつねに緑で、近くに大きな木があればそれに巻きつき、なければ高さ1mから3m程度の低木となります。花の大きさは2cmから3cmほど。白い花には5つの花弁が付きますが、八重咲きなどの品種もあります。花は密生してつくことはあまりなく、ポツンポツンと控えめに少しずつ咲きます。

 花には甘い香りがあるのでハワイでは人気の高いレイの素材のひとつとです。また、香水やアロマオイルなどもつくられています。ピカケは英名をアラビアン・ジャスミンと言い、ジャスミンの仲間ですから、香りがよいのもうなずけます。

花と蕾

 ピカケはモクセイ科ソケイ属で、このグループは世界に約300種類ほどあります。ちなみに、インドソケイというのもありますが、これはプルメリアのことです。けれどもプルメリアはモクセイ科ではなくキョウチクトウ科で関連はありませんが、西インド諸島が原産の、ジャスミンのように香りがよいという理由でインドソケイの名前が付きました。

 それほど芳しい香りを漂わせるピカケですから、世界各国で愛され、1937年にはフィリピンの、1990年にはインドネシアの国花に制定されています。原産地のインド周辺では薬としても用いられたようです。

 花の香りははかないもので、早ければ数時間で消えてしまいます。また、ジンジャー類のように、香りを放つ時間帯が特定されているものもあります。ハワイで人気のあるレイといえばマイレやイリマ、パカラナ(イエライシャン)などですが、これらはいずれも個性的で、長持ちし、強い香りを放つという共通点があります。ピカケもまた、これらの花に劣らぬ人気があります。100個前後の花で編まれるピカケのレイは、とりわけ若い女性に人気が高いようです。

クリーム色の花を使ったピカケのレイ

 花の香りは一般に夜に強いと言われますが、ピカケは朝の方が強いので、レイに使われるピカケの花も早朝に摘まれます。花をすぐに密封し、冷蔵庫に保管すれば1週間近くは鮮度も香りも失われることがありません。そのあとでも、ピカケはすばらしい香りを24時間近く強く漂わせることができます。

 一重のピカケはピカケ・ラヒラヒ、半八重や八重のものはピカケ・プププと呼ばれます。ラヒラヒはプププより刺激性の強い香りがするので、とくに若い世代に好まれるようです。ハワイでは十数種類の仲間が確認されていますが、大半は白花をつけます。その他に黄色の花を付けるものや、一種だけ淡いグリーンの花をつけるものがあります。

 中国のジャスミン茶はこの花を原料とします。葉に花を混ぜ、香りを移したあと、花のみ取り除くのです。和名の茉莉花(マツリカ、マリカ)はサンスクリット語のマリカー(mallika)が語源です。

八重のピカケ Photo Y.Watanabe

 このピカケは、中国からハワイに導入されました。当時はハワイ王朝の末期で、王家の血は途絶えつつあり、残されたわずかな王族のひとりにカイウラニ王女がいました。彼女はピカケ(クジャク)が好きで、アイナハウという場所にあった自分の住まいで飼っていました。また、香りのよい花を数多く敷地に植えており、なかでもジャスミンをことのほか愛しました。王女に接した人々は、彼女はいつもジャスミンのような香りがすると語っているほどです。そのことから、カイウラニ王女には、「島の花」とか、「プア・オ・ハヴァイイ(ハワイの花)」「アイナハウのバラ」など、花をイメージする多くの愛称が付けられたのです。

 彼女は英国に住んでいた時期もありましたが、王国の厳しい状況を知ってハワイに戻り、国のために尽くそうとしました。しかし、23歳の若さで亡くなります。残された人々は王女を忘れがたく、彼女の想い出は語り続けられました。詩人のエラ・ウィーラー・ウィルコックスもそんなひとりでした。彼女は人々の気持ちを代弁するように、「カイウラニ王女は花の香りを残してこの世を去った」という言葉をつづりました。この言葉をきっかけに、白い花をつけるマツリカと白いクジャク(ピカケ)を愛したカイウラニ王女にちなみ、この花をピカケと呼ぶようになったのです。

カイウラニ王女とピカケの銅像
白いクジャク(カウアイ島)

 ワイキキにあるカイウラニ王女の像は1999年にアウトリガーホテルと、同ホテルのオーナーであるケリー家によって建てられたものです。像には王女の好きだったピカケのレイがかけられ、足元にはピカケ(クジャク)が寄り添っています。

 トップページは白花のピカケです。次回はハワイのパワースポット(1)と題し、カウアイ島のポーハク・ピコについてお話しします

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