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カエナ岬
近藤純夫

車も走る? カエナ岬トレイル
 サーファーで賑わうハレイヴァの町の南にワイアルアという小さな集落があります。コーヒーのブランドとして有名になるまでは知る人も少ない小さな集落でした。この町からモクレイアの標識を頼りに930号線を西へ向かうと、ディリンガムの滑走路を過ぎた辺りに車止めがあります。間近にワイアナエの山々が迫り、右手はカウアイに続く海が広がります。ここから先は自然保護区です。

 矢のような突き出た岬はカエナと呼ばれ、ハワイ語で「熱」を意味します。細長い海岸線にはほとんど雨が降らず遮るものもありません。辺り一面に強烈な日差しが照りつける光景は、熱射という言葉がよく似合います。そのせいか、海に面しているのに土壌は乾ききり、ひび割れた赤土と砂混じりの岩礁が広がります。カエナには他にも、カヒキ(タヒチ)からやって来た火の女神ペレの兄弟(あるいは従兄弟)の名前が付けられたという説がありますが、おそらくカウアイ島からオアフ島にはこの荒れ地を経由したのでしょう。 左手のワイアナエの山並みが次第に低くなりスカイラインに電波塔が見えてくると、約5ヘクタールの敷地をもつカエナ・ポイントの自然保護区域となります。手前のゲートにある立て札にはさまざまな注意事項が記されています。違反者には罰金が科せられるので注意しましょう。駐車場のわきにはカエナ岬自然保護区の標識があります。


ハワイ王国の資金源となったイリアヒ(ビャクダン)
 ここから先にも車道は続きますが、車は入れません。カエナ岬トレイル(北海岸経由)は、ここから西に向かって伸びる2本の道の海側を歩くのがお勧めです。山側の道は規則破りのトラックが走って埃を巻き上げるからです。しばらくは変化の乏しい景色が続きますが、気に入った海岸を見つけたら磯に降りてみるのもよいでしょう。潮溜まりを覗いて海の生き物を観察するのは楽しいですし、冬場には沖合にザトウクジラの姿も見られます。赤茶けた道を歩いていると、強烈な日差しで肌がじりじりと焼けます。水は多めに持参しましょう。

 山側には乾燥した土地でよく見かけるハオレ・コア(ギンネム)が点々と連なります。ときおり、ハワイ固有の木であるイリアヒ(ビャクダン)を見かけます。かつてはどこにでも見られた木ですが、高価に売れたのでカメハメハ一世時代に採り尽くしてしまい、今日ではあまり見られません。花や葉、枝にいたるまでとても良い香りがします。イリアヒと似た運命をたどったコアの木の幼木もところどころにあります。木目が美しいため、木工品の材料として貴重な素材ですが、伐採や立ち枯れでずいぶん減少しました。


モクレイア近郊の海岸で釣りを楽しむ人々
 1時間と少し歩くと岬にたどり着きます。突端は真っ白な砂浜になっていて、ナウパカ・カハカイ(ビーチ・ナウパカと呼ばれるクサトベラの一種)が鮮やかな緑色の葉を広げています。その根元にコアホウドリの営巣地があって、冬季間(1月〜4月)は親鳥たちがやってきます。キアシシギやムナグロ、オオグンカンドリ、アカアシカツオドリなど、ほかにも多くの海鳥がこの保護区に生息しています。

 太陽を捕まえたことで知られる半神マウイは、この岬から釣り糸を垂れ、カウアイ島を釣ってオアフに近づけようとしたという神話が残されています。釣り糸は途中で切れましたが、針先にカウアイ島の一部がひっかかり、それがこの岬に残ってポーハク・オ・カウアイ(カウアイの石)という名が付いたと言われます。岬はまた、ポー(黄泉の国)の入口でもあって、死者の魂はここから旅立つと信じられました。カエナ岬は強いマナ(霊的な力)にあふれ、人はそこに立つと大きな力を得ることができると信じられてきたのです。かつてのハワイ人は、「人は死ぬとその魂は、夕陽が沈む先にある永遠の夜に飛び立つ」と信じました。死者の魂はカエナ岬から飛び立ち、闇の世界に入るのです。


カエナ岬の先端に立つ船舶用標識(minor light)
 岬の先端には船舶用の標識とライトが設置された塔が建てられています。ここにはかつて無人灯台がありましたが、銃の標的にされたり、バッテリーやライトが盗まれるということを何度も繰り返され、結局、山の上に移設されました。現在設置されているものはマイナーライト(あるいはパッシング・ライト)と呼ばれる簡易な反射板です。視界が開けているときにここから北西方面を眺めると、水平線の先に、蜃気楼のようにも見えるカウアイ島の黒い塊が見えます。

◆アプローチ

 ワヒアヴァから801号線、または803号線を進み、「モクレイア方面」の標識にしたがってファリントン・ハイウェイ(930号線)に入ります。ディリンガムのグライダー滑走路を過ぎた辺りに車止めがあります。地元のトラックなどがこのゲートを迂回して先へ入っていますが、真似をしないように。


岬から南岸のヨコハマ・ビーチ方面を眺める

◆注意

 ルートは平坦ですが日差しを防ぐものがなく乾燥しきっているので、水は多めに持っていきましょう。岬にあるコアホウドリの営巣地では、手が届きそうなところに巣が見えても触れたりしてはいけません。ここから南岸に向けてさらに歩くこともできますが、往復で6時間は覚悟しなければなりません。元来た道を戻ることをお勧めします。

  トップページの写真はカエナ岬の先端から見たワイアナエ山脈です。次回はハワイに数少ない猛禽類、イオとプエオについてお話しします。

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