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ハワイの星空
近藤純夫
空が澄みわたっていても満月のときや都会の上空では満天の星は期待できない
空が澄みわたっていても満月のときや都会の上空では満天の星は期待できない
 ハワイの見どころのひとつに夜の星空があります。夜空を埋めつくす星の数は肉眼では数え切れないほどあり、たとえばさそり座のような星座も、夜が更けて星のすべてが出現する前に確認しないと、どの星なのかわからなくなるほど。雲が広がっていたり、都市の光に夜空がかすむような場所や満月などの状態では期待できませんが、少し場所を変更するだけで、ハワイの島々ではどこでも美しい夜空を堪能できます。

 ハワイ島のマウナ・ケア山頂やマウイ島のハレアカラ山頂には各国の天文台があります。晴天率が高く空気が澄んでいること、そして何よりも1年を通じて全天の80パーセントを観察できることが大きな魅力です。北極星と南十字星を観察できる世界でもまれな場所なのです。同時にここは、先住のハワイ人たちにとっても聖地であることを忘れないようにしましょう。いまも伝統文化を継承するカフナ(祈祷師)が山頂を訪れ、これらの聖地を守り続けています。

 星を楽しむことができるのは都会から少し離れればだいじょうぶですが、空に雲の少ない場所を選ぶことも重要です。「風と雨と虹の話(1)」にも書いたとおり、通常、ハワイ諸島は北東から吹き寄せる貿易風の影響を受けるため、島々の北東側に多くの雨を降らせます。しかし、南西側はそれほど雨は多くありません。ワイキキやカイルア・コナ、カアナ・パリ、ポイプといったリゾート地がいずれも島の南西側に位置するのは、雨の少ない場所が観光客に喜ばれるからにほかなりません。

西の空にすっかり陽が沈むと、マウナ・ケアの山頂からの車列が光の帯を作り、頭上には少しずつ星が現れはじめる
西の空にすっかり陽が沈むと、マウナ・ケアの山頂からの車列が光の帯を作り、頭上には少しずつ星が現れはじめる

 世界中で星にまつわる神話があるように、ハワイ諸島にも星の神話があります。しかし、意外にもファンタジックな物語より、科学的な伝承が多いのです。先住のハワイ人たちは星に関する深い理解がありました。

 遠い昔、タヒチやマルケサス諸島から小さなカヌーに乗ってハワイ諸島へやって来たポリネシア人たちは、スターナビゲーションと言って、北極星(ホークー・パア)やすばる星団(マカリイ)などを目印にして航海を行いました。ポリネシア海域に限らず、太平洋の島々は周囲を広大な海に囲まれています。洋上の移動は暮らしのなかで不可欠なものでした。とくに長距離の航海の際に自分たちの現在位置を知る上で、星の観察はとても重要なものでした。彼らは航海中、水平線上に腕を伸ばし、指先に特定の星が来るようにしました。指を開いて星と星とがどのような位置関係にあるかを確認し、緯度だけでなく、経度についてもかなり精確な情報を得ていたのです。スターナビゲーションと呼ばれるこの航法のおかげで、彼らは数千キロメートルに及ぶ長距離航海においても正確な位置を確認することができました。*1

*1 もちろん、この他にも潮流や風、雲の流れや渡り鳥のコースなど、さまざまな情報を総合して進むべき方向を割り出していました。

ハワイ島の火山国立公園に夜が到来するとハレマウマウからは溶岩がオレンジ色の光を放ちはじめ、それに呼応するように夜空の星が瞬きはじめる
ハワイ島の火山国立公園に夜が到来するとハレマウマウからは溶岩がオレンジ色の光を放ちはじめ、それに呼応するように夜空の星が瞬きはじめる

 ハワイに限らず、夜空を観察するには特定の星や星団を見つけ出すことが重要です。太陽は西の空に沈みますから、観察は先に暗くなる東の空から行うとよいでしょう。また、それとは別に、一番星の確認も欠かせません。夏であれば南の空にさそり座が上がってきて、赤く輝くアンタレスは最初の目印となるでしょう。暗くなるにつれて銀河がはっきりと南から東の空へと大きく広がります。

 海洋航海をした先住のハワイ人が頼りにした星のひとつにすばる(マカリイ=プレイアデス星団)があります。ご存知のように、日本が誇るすばる望遠鏡の名前の由来になった星です。

 いまから30年ほど前に、先人の技術を復元しようと、「ホ(ー)ク(ー)レア(喜びの星)」という名のカヌーが造られました。レアは「le'a」と書き、「lea」と意味は異なりますが、「カヌー造りの女神」という意味や「星の名前」という意味が「lea」にはあります。

マウナ・ケアの3000m付近にある建物の灯りと空に広がりはじめた星々
マウナ・ケアの3000m付近にある建物の灯りと空に広がりはじめた星々

 しかし、ホクレアを造ることを決めたものの、ハワイはおろかポリネシア地域にも航海士が存在しなかったため、ハワイの人たちはミクロネシアの航海士に指導を仰ぎました。彼らはこの航海で初めて星の位置を読み取る技術(スターナビゲーション)の重要性を知ったのです。

 ホクレアによるタヒチへの長距離航海を成功させたあと、ハワイの人々は「ハワイ・ロア(ハワイ諸島を発見したとされる伝説の人物)」を建造し、その後1995年には3艇目の航海カヌーとして「マカリイ」を造りました。マカリイはハワイ島のカヴァイハエからマルケサス諸島やタヒチのライアテアへと航海しました。ライアテアはかつてハヴァイキ(Hawaiiki)と呼ばれ、島伝いに東進してきたポリネシア人が最初に定住した島だとされ、ポリネシア人全体の故郷とも言われています。カメハメハ大王が諸島を統一したとき、このことを念頭にハワイ王国は命名されました。

 星の話に戻りましょう。このように、彼らの航海では星々を知ることが何よりも重要であること、そして、先人の文化が深く星と結びついていることを改めて知らされました。マカリイはそのなかでも北極星と並んで重要な星(星団)のひとつでした。

南東の空に広がる銀河とさそり座。アンタレスの赤く輝く1等星も星の海に呑みこまれてしまった
南東の空に広がる銀河とさそり座。アンタレスの赤く輝く1等星も星の海に呑みこまれてしまった

 マカリイは冬の星座です。ザトウクジラがハワイ諸島に戻って来る時期がマカリイの観察時期でもあります。冬の空でよく目立つ星座にオリオン座があります。オリオン座の左上と右下を結んで引いた直線を基本として、右上の星から基本線に垂直に右上に向かって直線を2倍の距離引きましょう。その少し右にマカリイはあります。洋上に浮かぶ小さなカヌーの人々がどのような思いでこの星を見つめていたのか、改めて思いを馳せるのもよいでしょう。

 表紙はマウナ・ケアの2000m付近にあるプウフルフルと、西の空に広がる空を写したものです。次回は「再出発 −スパ・リゾート・ハワイアンズ」と題してお話しする予定です。

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