ハワイの自然、文化、歴史がテーマのアロハWEBカワラ版
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ハワイの小説(1)
近藤純夫
ハワイを題材にした小説はかなりあります。今回は日本の作家の作品と、日本語に訳されているもののなかで比較的入手しやすい文庫を紹介します。ノンフィクションやドキュメンタリーについては、機会を改めて紹介する予定です。

『まぼろしハワイ』 よしもとばなな 幻冬舎文庫

まぼろしハワイ
まぼろしハワイ
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 「まぼろしハワイ」「姉さんと僕」「銀の月の下で」という3つの短編によって構成されていて、いずれもハワイを題材とした作品です。「まぼろしハワイ」は、幼少時に母を亡くした主人公オハナが、突然父を亡くし、空っぽの心のまま、義母とハワイを訪れるという物語です。義母は幼少時をハワイで過ごし、いまはフラダンサーをしています。ふたりはオアフ島のタートルベイ・ホテルに滞在しますが、そこは、オハナの母がかつて宿泊したことのあるホテルでした。母の遺した日記を読みながら、哀しみに沈むシーンが印象的です。「姉さんと僕」は、臨月だった母が、父とともに交通事故に遭って死亡。「ぼく」は母親の中から取り出され、遺された姉と叔母があふれんばかりの愛情を注いで育ててくれます。あるとき、ぼくは叔母の結婚式のため、姉とともにハワイへ行きます。叔母がよそへ嫁ぎ、自分の元から遠ざかるという事実は、思っていた以上に深い痛みを心に作りました。ハワイという場所の優しさとよそよそしさを追体験できる秀作です。他に新しい家族とのハワイ旅行を扱った「銀の月の下で」が収録されています。


カイマナヒラの家
カイマナヒラの家
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『カイマナヒラの家』 池澤夏樹 集英社文庫

 さまざまな問題を抱えた人たちがカイマナヒラ(ダイヤモンドヘッド)近くの海辺に建つ家で共同生活をしていて、主人公のサーフィン好きな「ぼく」は、ハワイを訪れるたびにこの家に滞在します。ぼくは、サーファーとしてハワイの海に心を委ねることで深い満足感を得ます。また、ひとりの旅人として、「神さまとは、着陸できない飛行機」の話や、伝説の女性サーファーであるレラ・サンの死の話などを現地の人から聞き、生命のすばらしさを改めて心に留めます。ストーリーを通じてハワイの魅力がしみじみと心に満ちあふれて来る珠玉の作品と言って良いでしょう。物語にも増して、随所に差し挟まれた芝田満之氏のすばらしい写真も必見です。

ちなつのハワイ
ちなつのハワイ
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『ちなつのハワイ』 大島真寿美 ポプラ文庫

 ハワイに限らず、旅先でときどき起こるのが家族間のトラブルです。冷え切った家族に心を痛める小学生の主人公ちなつは、日本の田舎にいるはずの祖母の声をときおり耳にして元気を与えられながら、壊れかけた家族の絆を少しずつ取り戻していく物語です。本書は児童書なのですが、ハワイの風を感じるような臨場感たっぷりの情景描写とともに、大人もじゅうぶん楽しめるエンタテイメントです。最後の最後におばあちゃんが口にする「マハロ」のひと言が、物語全体に深くじっくりと染みわたっていきます。
※本書は著者の「夏休みシリーズ」のひとつとして書かれたのものです。

ハワイ暗黒殺人
ハワイ暗黒殺人
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『ハワイ暗黒殺人』 ロバート・ウォーカー 扶桑社ミステリー

 検死官ジェシカは、殺人犯との戦いという仕事を忘れるため、ハワイを訪れます。しかしハワイに着いて間もなく、地元のFBI支局長から連絡が入ります。ホノルルでは若い女性の失踪が続いていて、今回は観光地から被害者の遺体の一部が発見されたという報告でした。しかも現場付近には警官2人の惨殺死体が…。春になると吹きはじめる貿易風とともに発生した「貿易風殺人鬼」の出現に、ホノルルの街は騒然とします。FBIや警察は必死の捜査をするものの、犯人はそれを嘲笑うかのように犯行を重ねます。犯人の影を追うジェシカたちは、外部の人間を拒む禁断の島へと潜入し、犯人と対峙します。ハワイに巣食う社会的な問題を取り上げるという点に注目したい作品です。
※本書は「検死官ジェシカ・コラン・シリーズ」のひとつとして書かれたものです。

エデンの炎
エデンの炎
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『エデンの炎』 ダン・シモンズ 角川文庫

 本書は予備知識なしに読んでもそれなりにおもしろいですが、ハワイの文化や自然についてある程度知っているとおもしろさは何十倍にもなります。主人公の遠縁にあたる女性と作家マーク・トゥエインとの意外な関係、火山噴火がもたらすとてつもない自然災害、そしてハワイ神話の悪夢がもたらす事実。さまざまなジャンルでベストセラーを出す作家とは思えないほど、深いハワイの知識を背景に描かれたこの作品は、ハワイに対する想いが深い人に大きなインパクトを与えるはずです。
 ハワイの文化に対するリスペクトのないリゾート開発によって、地底に封じこめられた悪しき神々の呪いが解き放たれる。火を噴く火山、言葉を話す獣、宿泊客の失踪という深刻な事態のなかに、主人公のエレノアが到着する。彼女は遠縁の女性が残した手記を頼りに、悪夢の支配者の住みかに近づこうとします。ミステリーとしてもホラーとしてもハワイの自然や文化を知る上でも1級のエンタテイメントです。

ハワイ通信
ちょっと面白いハワイ通信
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『ちょっと面白いハワイ通信』 マーク・トウェイン 旺文社文庫

 マーク・トウェインと言えば『トム・ソーヤーの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』で知られた大作家です。彼は作家となる前に新聞記者としてハワイに3ヶ月ほど滞在し、アメリカ本土(サクラメントの新聞)にハワイの魅力を伝える仕事をしていたことがありました。本書はそのときのエピソードを独特の切り口でまとめたものです。一見ノンフィクションのようにみえますが、かなりフィクションが織り交ぜられている…というか、大げさに表現されているので、ドキュメンタリーというよりエンタテイメントに近い作品に仕上がっています。ただし、話題に上がる題材は実在するものなので、彼がどのように当時のハワイ社会を捉えていたかがよくわかって興味深いです。
※単行本でも出版されていますが、翻訳があまり感心できないので、ぜひ文庫でお読みください。とはいうものの文庫はすでに絶版となっているので、図書館などをご利用ください。

 表紙は、いまはすでにないハワイ州最大の古書店だったコハラ・ブックスの店内にあるハワイ・コーナーのスナップです。次回はハワイの小説(2)と題し、引き続きお勧めの小説をご紹介します。


 本の世界 (1) マーク・トウェイン 2003年5月1日
 本の世界 (2) ロバート・ルイス・スティーブンソン 2003年5月15日
 本の世界 (3) イザベラ・バード 2003年6月5日
 > その他の特集は、こちらの「バックナンバー」からご覧いただけます。
 

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