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ホノムの町と曾我部四郎
近藤純夫
曾我部牧師と妻シカ(左)
ハワイ島ヒロの町を海沿いに北上すると、間もなくアカカ滝に続く坂道が出現します。アカカ観光をした人は、急坂を登り終えて左折したところに小さな商店が並んでいるのを記憶していることでしょう。滝へ行くためにはすぐに右折して山を登っていくので、印象は薄いかもしれません。この小さな集落がホノムの町です。ホノムはハワイ語で「静かな湾」という意味があります。海からはかなり遠い奥まった土地ですが、19世紀から20世紀にかけて激しく変化したハワイの町のなかでも、ここだけはなにひとつ変わることなく静かな佇まいを見せていたことによると言われます。
地元の観光会社の他は、小さな土産物屋や雑貨店くらいですが、人口500人ほどの小さな町にしては画廊やアンティーク店の数の多さが目をひきます。カウアイ島のハナペペと同じく、ホノムは芸術家の町としても知られています。2009年にはホノカア・ボーイという映画がホノムの北にあるホノカアの町を舞台にしましたが、このとき主人公がときどき寄る店はこの町に設定されていました。また、オアフ島ハレイヴァの名物店として知られるマツモト・シェイブ・アイスのオーナーもこの集落の出身です。
通りに面した建物は、いずれも異なったパステル調の色に塗られていてとてもカラフルですが、商店街はすぐに終わります。個人的にはいまはクローズしてしまったホノム・シアターが歴史を感じさせて印象的だと思います。かつて日本の芸能人は島中を回って現地の日本人移民にひとときの華やかさを与えました。美空ひばりも若い頃はホノカア・シアターやホノム・シアターのステージに立ったのです。
教会の敷地内に唯一残っている義塾時代のかまど
住宅街の一画
商店街の先の、アカカ滝への分岐の先に続く住宅街を真っ直ぐ進んだほぼ突き当たりに小さな教会や寺院があります。そのうちの3つは日本人移民の暮らしの支えとしてさまざまな役割を担ってきました。なかでもヒロ・コースト・ユナイテッド・チャーチ・オブ・クライストはソカベ・チャペルとも呼ばれ、いまから120年ほど前、この地にホノム義塾を設立した曾我部四郎(そかべしろう)牧師を中心に重要な役割を果たしてきました。
ホノムの北側に広がるサトウキビ畑跡
曾我部四郎は福岡県生まれで京都の同志社大学を出たあと、1894年にホノム義塾を設立しました。このとき、ハワイ島最初の日本人学校が誕生したのです。1949年になくなるまで半世紀以上にわたって移民労働者やその子どもたちに日本語教育と文化を教え続けたほか、キリスト教の伝道にも力を注ぎました。
この奉仕は、妻であるシカと、多くの教員によって続けられました。寝食をともにする暮らしですから、多くの労力を割く日々でしたが、曾我部牧師は日本文化とキリスト教文化という立場の異なる文化の啓蒙に心血を注ぎました。
ホノムの町にはこの他にも、後に設立された高野山真言宗の遍照寺(お大師さん)をはじめ、本願寺、カトリック教会があり、なかでも2つの寺院はホノム義塾とともに、日本人移民の教育や生活に多くの努力を払いました。しかし、お寺は日本の伝統宗教であることから、キリスト教伝道を基本とするホノム義塾の子どもたちは多くがそちらへ流れてしまったこともあります。義塾に残ったのは、家庭に戻れないような子どもたちが中心で、そうした子どもたちは原則的に無料で世話をしていました。そのため、親教会からの支援はあったものの、ホノム義塾はつねに財政的な危機を背負っていました。
本願寺
お大師さん
ここで教育を受けた子どもたちの当時の遊び場は、マウナ・ケア山麓に広がるサトウキビ畑で、おやつもサトウキビという質素なものでしたが、生活に破綻した家庭の子や親に問題のある子などが多かったこともあり、子どもたちは幸せに育ったと言います。小学生は毎朝、義務教育を受けるために町にある学校へ通い、高校生は当時はまだあった鉄道に乗ってヒロまで通いました。これとは別に、日本語教育係として多くの教師がホノム義塾で教壇に立ちました。右下の写真の、左の女性は、曾我部四郎牧師の資料を保管するサツキ・ウノキさん。右は義塾の教師だった石井喜太郎の孫に嫁いだカオル・イシイさんです。
ソカベ・チャペルの隣にあるカトリック教会
ウノキさん(左)とイシイさん(右)
教会のさらに奥には日本式の墓がたくさんある小さな墓地がありますが、曾我部夫妻の墓はホノムではなく、ヒロの町にあります。
トップページの写真はソカベ・チャペルです。次回はカウアイ島の芸術村、ハナペペについてお話しします。
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【ハワイの歴史】
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歴史の謎に迫る (2)
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