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ボルケーノハウス(その2)
近藤純夫
リニューアルされたボルケーノハウス(1907年)
リニューアルされたボルケーノハウス(1907年)
 前回に引き続きボルケーノハウスの歴史をお伝えします。今回は20世紀に入ってから今日までの歩みです。

  ボルケーノハウスは1891年に大改装を施し、それまでの山小屋風の建物から、堂々とした押し出しのビクトリア調建築に変身しました。展望台やダイニングルーム、応接室、それに6つの客室(定員18名)を備えた本格的なホテルの誕生です。

ハレマウマウの噴煙(1924年)
ハレマウマウの噴煙(1924年)

 前回の話の最後に触れたように、ビジネスマンで政治家でもあったロリン・サーストンの尽力で、キラウエアとマウナ・ロアを含む地域は1916年、国立公園に指定されます。その5年後の1921年、ボルケーノハウスは施設の拡大を行い、それまでの定員18名から一挙に115名を収容する大型施設となりました。これに伴い、建物はカルデラの縁から少しだけ離れた場所に移設されました。また裏手には従業員用の建物も造られました。この施設には浴室もあり、火山の水蒸気を利用したスチームサウナが設置されました。

 その後、ホテル事業は順調に推移しましたが、1929年に起きたアメリカの大恐慌にあおりを受け、ボルケーノハウスは倒産し、当時オーナーだったギリシャ系アメリカ人ジョージ・ライカーガス(リカーガス)は、わずか300ドルで施設を売却しました。1932年のことです。ライカーガスはホテルを売却しましたが、離れを使用する権利を得たため、キラウエアに留まりました。

1940年の出火
1940年の出火

 1940年に火災が起き、ボルケーノハウスは燃えてしまいます。噴火による延焼ではなく、キッチンでの火の不始末による失火だったのは皮肉でした。不幸中の幸いだったのは、新館の近くに1877年の建物がまだ残されていたことでした。ライカーガスは火災の起きた建物から200mほど離れた以前の建物を再度宿泊施設として使用する許可を得ました。火災の翌年、マウイ島出身のチャールズ・ディッキーが建物を改築し、再生させたのです。

 この建物はボルケーノ・アートセンターとしていまも活用されています。1974年にはハワイ州立歴史遺産に登録され、その半年後には国立歴史遺産にも登録されました。ボルケーノ・アートセンター(旧ボルケーノハウス)は米国最古のホテルだったからです。建物は、現在のボルケーノハウスとは道をはさんで反対側、ビジターセンターの並びにあります。内部の構造は変更していないため、当時の客室サイズに区切られた小さな部屋が連なり、地元アーティストたちの作品が展示されています。

アンクル・ジョージとハレマウマウ(1952年)
アンクル・ジョージとハレマウマウ(1952年)
 ライカーガスは皆からアンクル・ジョージと呼ばれ、1960年に101歳で亡くなるまで、ロビーの窓際に置かれた彼専用のアームチェアで、煙草をくゆらせ、飽きることなくハレマウマウの噴煙を眺めていました。

 ボルケーノハウスは歴代の著名人が宿泊しています。作家マーク・トウェイン、デビッド・カラーカウア王と妹のリリウオカラニ女王、ビクトリア・カイウラニ王女、英国作家ロバート・スティーヴンソン、英国旅行作家イザベラ・バード、フランスの細菌学者ルイ・パスツール、米国大統領フランクリン・ルーズベルトなどなど。

現在とほぼ同じデザインの建物(1964年)
現在とほぼ同じデザインの建物(1964年)

 ボルケーノハウスは経営上のトラブルから数年間閉鎖されていましたが、再度オーナーが代わり、全面的にリニューアルされました。2013年に暫定オープンし、9月にグランドオープンしました。かなり古かった旧館のインテリアや、隣室の音が筒抜けだった新館も徹底的にリノベートされた結果、外観こそかつてと同じ姿ですが、内部はすっかり様相を変えました。

 

ボルケーノ・アートセンター(2000年)
ボルケーノ・アートセンター(2000年)
  ボルケーノハウスの再オープンに伴い、国立公園のレンジャーたちは新しいプログラムを履修することになりました。ボルケーノハウスの歴史を学び、国立公園入場者に伝えるためです。この催しは公園の管理運営が通常通り行われていれば、毎朝9時から45分間、開催されます。ぜひ、建物の観察を通じて、ハワイの歴史の一端を味わってください。

 アンクル・ジョージが日夜楽しんでいたハレマウマウの噴煙は、その後間もなく姿を消しました。しかし、2008年に再噴火し、昼夜を問わず観光客の目を楽しませています。溶岩は地下のマグマ溜まりから上昇しますが、ハワイ諸島は太平洋プレートに乗り、毎年6cmから9cmの速度で北西へ移動を続けています。その結果、島とマグマ溜まりを繋ぐパイプはやがて細くなって切り離され、ハワイ島の火山活動も終わりを遂げるでしょう。

火の女神ペレが刻まれた暖炉(2013年)
火の女神ペレが刻まれた暖炉(2013年)

 さらにはハワイ島そのものがマグマ溜まりから遠ざかり、ほどなく島の浸食がはじまります。いまは若々しいハワイ島も、やがて全島が緑に覆われたカウアイ島のようになり、さらには海にわずかに顔を出すミッドウェー島のようになって島の一生を終えることになります。それは今日の人類にはあずかり知れぬことですが、ハレマウマウの噴火活動はわれわれの時代に終わりを遂げる可能性が高いでしょう。貴重な自然の営みが絶える前に、ぜひ一度自分の目で、壮大な地球の営みをご覧ください。

 トップページは、1920年のボルケーノハウスです。次回はフラの女神の化身(キノ・ラウ)とされたラマという植物についてお話しします。

リニューアルされた内部(2014年)
リニューアルされた内部(2014年)





フラの花100「フラの花100─ハワイで出会う祈りの植物」(平凡社)
全192ページ 1,890円(税込)


フラにまつわる100のハワイやポリネシア由来の伝統植物・花々を厳選し、それぞれの植物や花々の文化的背景、歴史、伝承などをわかりやすく解説した楽園ハワイの植物ガイドです。

フラやキルト、レイなどはもちろん、ハワイの文化を知りたい人には是非ハワイにお持ちいただきたい一冊です。この本を片手に旅をすれば、きっとハワイがもっと好きになることでしょう。


アロハカワラ版「アロハブック・シェルフ」でも紹介しています
>>> フラの花100─ハワイで出会う祈りの植物

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