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葉と柿に似た実 |
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ハワイの伝統文化には「キノ・ラウ(Kino Lau)」という言葉があります。これは「形のある(理解しうる、触れられる)体」という意味です。世界の原始的な信仰(宗教)の形態にアニミズムがありますが、これは「自然界のあらゆる事物は具体的な形を持ち、それぞれ固有の霊魂や精霊などの霊的存在を持つ」という信仰です。自然界のさまざまな出来事は、霊魂や精霊の意思、あるいは働きによる結果と見なします。ハワイのキノ・ラウという言葉はこれに近いものです。キノ・ラウの語源からもわかるように、神と先祖、霊的な存在はすべて基本的に同じものです。これらは具体的な形を持って自然界に存在すると信じられました。
ハワイ諸島には40万を超える神がいると言われます。ハワイの神々は先祖の霊(アウマクア)が森羅万象に姿を変えて生きつづけるとされたため、数字は「無数の神々がいる」ということを表しています。なぜ「何十万、あるいは何百万」と言わず、40万なのかと言うと、ハワイでは10進法に4を掛けたものが基本だからです。
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繊毛に被われた葉 |
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よく知られるキノ・ラウに火の女神ペレがあります。ペレはレフアの花や若い娘、老婆など、さまざまなものに姿を変えたとされます。名の知れた神は、人々の暮らしに深く関わりました。ペレは火山活動の象徴ですから、流れ出す溶岩が人間社会にさまざまな被害を与えてきたことを想像させます。
森の女神であるとともにフラの女神でもあるラカのキノ・ラウはラマという柿の仲間です。ラマは比較的湿気の多い森に生育します。小さな実は日本の柿に近い味があり、完熟すると食べることができます。ラマは、フラのハーラウ(修練所)に設置されるクアフ(祭壇)に置かれます。ハーラウではこの木を、オーレナ(ターメリック)の根茎などで黄色に染めたカパで包むことが多いようです。その理由は、ラマが光を表すためだと言われます。
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直径1cmに満たない小さな花 |
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クアフにはキノ・ラウであるラマが中心に置かれます。この場合のキノ・ラウはご神体に近い性格を持ちます。そこで、ラマへの恭順を表現するため、周りにはオヒア(レフア)やククイ、イエイエ、パラアー(またはパラパライ)、マイレといった香りの高い植物が添えられます。
女神ラカはフラの女神として、これを啓蒙する役割を担いますが、啓蒙(enlightment)には「光を放つ」という意味もあります。ハワイ語では啓蒙を「mālamalama」あるいは「mālama」と言い、この言葉にも「光(lama)を解き放つ(mā)」という意味があります。つまり、ラマという植物はたまたまラカと関わったのではなく、ラカという存在はラマによってこそ成立するという考えがあったのです。
このことから推し量ることができるのは、フラはひとつのルールであり、それに従うことが社会規範として求められていたということです。ハーラウのルールを破ることは、ときに集落からの追放や死罪とさえなりました。
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香りのある材 |
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ラカはフラの女神であるとともに、森の女神でもあります。ハワイに限らず、ポリネシア、ひいては未開の文化では、森は魑魅魍魎のひそむ神秘的な場所でした。森を司るということは、秩序をもたらすという意味が込められていたはずです。ハワイの伝統社会においても、森というのは広大で、そこに放り出されることは不安で心もとなく、自分が小さな存在であることを知らされる場所でした。これに対し、ハーラウは礼儀、忍耐、協調、アロハの心を求められる場所であり、それは人が成熟した大人としての対応を求められる場所でもあります。ハーラウにキノ・ラウが置かれるのは、光が隅々にまで行き渡り、心のなかに闇を作らないことの象徴でもあるということです。
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完熟した実 |
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黒檀の仲間であるラマは非常に堅く耐久性があるため、ハワイ人はこの木で神の家を造るこがありました。また、イア・ロコ(養魚池)の潮門に利用しました。ヘイアウ(神殿)は周囲をパラマ(柵)で囲みますが、ラマはこの材料ともなりました。柵のなかに病人を置き、回復を祈願したのです。
ハワイ名:Lama, Elama
学名:Diospyros sandwicensis カキノキ科カキノキ属
英名:Hawaiian Ebony
和名:なし
原産地:ニイハウ島とカホオラヴェ島を除くハワイ諸島
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ラマの木 |
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トップページの写真は繊毛に被われたラマの花です。
次回はハワイの風景を形づくる樹木のひとつであるバニヤン・ツリーについてお話しします。 |