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ヌアロロ・トレイル
近藤純夫
登山口の標識
登山口の標識
 カウアイ島でもっとも人気のある景勝地であるワイメア渓谷とナパリ・コーストの両方を楽しめるということで、コケエ州立公園には毎日多くの観光客が訪れます。ほとんどの人は車で展望台を回るだけですが、カウアイ島の自然を深く楽しむには多少汗をかいて歩くことをお勧めします。

 今回紹介するヌアロロ・トレイルは、公園の中心に近いコケエ・ロッジ脇からスタートします。行きは下り、帰りは登りとなるので、スタミナ配分に気をつけましょう。トレイルの後半は赤土の露出した部分が多くなり、雨が降ると滑りやすくなります。トレッキング・ポールを用意しておくと何かと便利です。ルートは一定距離(0.25マイル/400m)ごとにマイルストーン(距離指標)があります。自分の歩くペースや、残りの距離の目安にしてください。


イリアウ。花をつけるのは6月頃
イリアウ。花をつけるのは6月頃
 行程の後半は日陰がほとんどないので、登り返すときはかなり水分の補給が必要になります。小さなペットボトルであれば1人3本くらいは持参した方がよいでしょう。また、午後になると霧が発生することが多いので、早朝の出発をお勧めします。

 歩き始めは軽い登りです。やがて平坦になり、徐々に下り基調となります。周囲はうっそうとした森で、視界はあまり開けませんが、その代わり、マイレやイリアウ、ハラペペ、モキハナなど、さまざまなカウアイの固有植物に出会えます。

 ハワイ諸島のどこでも言えることですが、完全な原生の自然を保っている土地はほとんどありません。ヌアロロ・トレイルにも、ランタナ、バナナポカ、シコンノボタン、クサノボタン、カヒリジンジャーなど、有害植物に指定されている外来の植物が年々勢力を増しています。途中1kmほど進んだところに、フェンスで囲まれた土地があります。これは希少植物を野ブタなどの食害から守るための保護エリアです。

ランタナに覆われた広場
ランタナに覆われた広場
 行程の3分の1ほど進むと開けた場所に出ます。とても気持ちのよい空間で、かつては在来の植物がありましたが、現在は多くの木がランタナに覆われているのが少し残念です。しかし、ランタナ以上に問題のある植物もあります。有害植物のなかでも取り分け大きな問題を起こすストロベリーグァバが、近縁のイエローストローベリーグァバとともに、トレイル上でそこかしこに見られます。果実は甘くおいしいので食べても良いですが、なかの種子は吐き出さずに飲みこむか、ゴミ袋を用意してそのなかに捨てましょう。種子はきわめて発芽力が強く、またたく間に捨てた場所で生長を始めます。

 コアの巨木が倒れているところからアップダウンを繰り返すと、やがて前方が少しずつ開けてきます。ハワイ固有のイリアヒ(ビャクダン)の林を抜けると赤土が露出しはじめ、彼方に海とニイハウ島が見えてきます。行程の半分(2km)ほどの地点です。

海の向こうにニイハウ島を望む
海の向こうにニイハウ島を望む

 ここから先は次第に崖の尾根を歩くようになります。「ナパリ(Na Pali)」とは崖のこと。踏み跡に沿って歩けば問題ありませんが、雨や霧に覆われるとスリップをして思わぬ事故となることもありますので気をつけて進みましょう。


赤土の崖の上にゴールの柵が見える
赤土の崖の上にゴールの柵が見える
 終点まで1kmほどのところで、アヴァアヴァプヒ・トレイルに至るヌアロロ・クリフ・トレイルとの分岐となります。現時点でこの道は通行不可になっていますが、今後再オープンするかもしれません。帰路に(または往路に)アヴァアヴァプヒ・トレイルを利用する予定があるのなら、事前にコケエ・ミュージアムで確認しておきましょう。ここでは標識を直進し、終点を目指します。

 やがてナパリの深い峡谷が足元に見えてきます。剥き出しの赤土の踏み跡を慎重に進み、鉄柵が見えたらそこが終点のロロ・ビスタ(展望台)です。足元の渓谷の下にはククイの森が、北東にはナパリ・コーストの険しい崖が連なります。いずれの崖も風雨に深い浸食を受け、無数のひだを造り出しているのがわかります。

 カウアイ島が海上に姿を現してからおよそ600万年が経過しました。もっとも新しいハワイ島が約60万年ですから、10倍もの時を刻んでいます。島は北東から吹きつける貿易風に伴う風雨と波によって少しずつ浸食され、今日に至ります。この先、太平洋プレートに乗って少しずつ北西へ移動しながら浸食を繰り返し、さらに2500万年ほど経つと、今日のミドウェー島のように小さなサンゴ環礁となってやがて海に沈み、島の一生を終えます。ナパリ・コーストは島の生き証人と言い換えても良いでしょう。

深い浸食を受けた崖。中央の、白いゴミのようなものは遊覧ヘリ
深い浸食を受けた崖。中央の、白いゴミのようなものは遊覧ヘリ
 ロロ展望台から海を見下ろすと、海岸近くにいくつもの白いすじが見えます。それらはナパリの海岸沿いを遊覧するボートです。頭上には上空からナパリを俯瞰するヘリがひんぱんに往来します。また、コアエ・ケア(シラオネッタイチョウ)という、長く優美な白い尾を持つ鳥が滑空しているのに気づくことでしょう。遠くに浮かぶニイハウ島にも遊覧船がたてる白い波の跡が見えるはずです。

 帰路はゆっくり登り返して2時間から2時間半です。

コーレア
北東方向にナパリ・コーストを臨む

 トップページの写真はロロ・ビスタに近い展望所です。次回はナパリ・コーストを海路でご紹介します。



フラの花100「フラの花100─ハワイで出会う祈りの植物」(平凡社)
全192ページ 1,890円(税込)


フラにまつわる100のハワイやポリネシア由来の伝統植物・花々を厳選し、それぞれの植物や花々の文化的背景、歴史、伝承などをわかりやすく解説した楽園ハワイの植物ガイドです。

フラやキルト、レイなどはもちろん、ハワイの文化を知りたい人には是非ハワイにお持ちいただきたい一冊です。この本を片手に旅をすれば、きっとハワイがもっと好きになることでしょう。


アロハカワラ版「アロハブック・シェルフ」でも紹介しています
>>> フラの花100─ハワイで出会う祈りの植物

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